中山間水田作での飼料用米直播、大豆晩播と用排水技術による所得効果
要約
中山間集落営農法人の水田作において、飼料用米の鉄コーティング湛水直播、除草体系を改善した大豆「あきまろ」の晩播栽培、地下水位制御システムを導入すると経営面積の拡大が可能となり、1人当所得が他産業並みに増加する。
- キーワード:集落営農法人、湛水直播、大豆晩播、除草体系、地下水位制御システム
- 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
- 代表連絡先:電話 084-923-4100
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
中山間地域における集落営農法人(以下、中山間集落営農法人)内の労働力は近年脆弱化しつつあり、特に主食用米以外の収益向上と若年就農者確保が喫緊の課題である。中山間地域の圃場条件は多様であるが、排水条件の不良な中山間集落営農法人における飼料用米と大豆の低単収を改善するひとつの有効な技術として次の技術を体系化した。すなわち1.飼料用米の多収品種「夢あおば」の鉄コーティング湛水直播、2.大豆新品種「あきまろ」の晩播栽培、3.3剤使用の大豆の新除草法、4.地下水位制御システム(用排水技術)を適用した大豆栽培を導入した技術体系である(表1)。ここで事例とした中山間集落営農法人は、2014年の作付面積85ha、水稲・小麦・大豆を中心とした経営を行っている。事例に基づいた経営モデルに、上記技術体系を導入した場合の経営シミュレーションを行い、新技術の所得向上効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 新技術体系及び慣行の各作物の収支は、表2のとおりである。中国地方の中山間地域では、大豆の梅雨時期における湿害による苗立ち不良、難防除雑草による大豆の生育遅れ、条件不利圃場などによる低単収が深刻な問題であるが、新技術導入により、飼料用米単収は437kg/10aから613kg/10aに、大豆単収は130kg/10aから231 kg/10a(晩播用の「あきまろ」)、274kg/10a(標播用の「サチユタカ」)に向上する。その結果、新技術による10a当たりの所得は、飼料用米が1.6万円/10a、「サチユタカ」の標播新技術が4.7万円/10a、「あきまろ」の晩播新技術が3.2万円/10a増加する。
- 技術を導入した各ケースを図1に示した。飼料用米新技術単独では、機械の償却費増加と物材費増加により、時間当たり所得はほぼ変化なく、経営面積は増加する(ケース2)、大豆新技術単独では、時間当たり所得が最大となり(ケース3)、両新技術導入では時間当たり所得及び経営面積が増加し、常時雇用者1人当たり所得が405万円と他産業並み(図1注3)を実現する(ケース4)。また、ケース4における大豆品種「あきまろ」の晩播新技術と「サチユタカ」の標播新技術の作付面積比は54:46になり、作業分散にも貢献している。
成果の活用面・留意点
- 中山間水田作経営に現有の技術シーズを導入した場合の所得向上効果を具体的に示す資料として、生産者、行政、普及指導者の活用が期待される。
- 本成果は用水供給等に問題がない場合の試算結果であるが、中山間地域における多様な圃場条件により、地下水位制御システム等新技術の導入が不可能な場合がある。例えば大豆に充当された農地のうち施工可能な割合がケース4の大豆面積の30%である場合には1人当たり所得は13%減少する(参考図)。多様な圃場条件を持つ中山間地域においては、上記技術体系の他にもきめ細かい技術提供と、組み合わせが求められることに留意する必要がある。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(25補正「革新プロ」)
- 研究期間:2014~2016年度
- 研究担当者:坂本英美、奥野林太郎、岡部昭典、窪田潤、竹田博之、貝淵由紀子(広島県農技センター)
- 発表論文等:坂本 (2017)農業経営研究、54(4):25-30