ニホンジカ(ホンシュウジカ)は超音波を聞くことができるが、忌避することはない

要約

ニホンジカは、周波数が20kHz以上の音である超音波に対して聴く反応を示したが、忌避や嫌悪反応を示すことはなく、超音波によるニホンジカの防除は期待できない。

  • キーワード:ニホンジカ、聴覚刺激、超音波、行動、被害対策
  • 担当:西日本農業研究センター・畜産・鳥獣害研究領域・鳥獣害対策技術グループ
  • 代表連絡先:電話 0854-82-0144
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンジカによる農林業被害が深刻な問題となっており、農作物被害金額、被害面積、被害量のすべてにおいて獣類の中で最も多くなっている。農地や造林地等では、音によるニホンジカ侵入防止対策が簡便な手法として用いられることもあるが、その効果を科学的に検証した研究はほとんど無く、シカの聴覚に関する知見もない。本研究では、11種類の周波数の純音に対するニホンジカの行動を調査することにより、彼らの聴覚域を明らかにし、超音波による防除技術の効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • 餌を摂食中の飼育ニホンジカ(亜種のホンシュウジカ)6頭(成獣メス2頭、2歳オス2頭、1歳オス1頭、1歳メス1頭)に対して、スピーカーを通して50Hzから60kHzまでの11種類の周波数の純音を音圧70dBまたは80dBで提示する実験の結果である(図1)。
  • 供試個体は周波数が100Hzから50kHzの音に対して、スピーカーの定位や耳介を動かす等の音を聴く反応を示したことから、ニホンジカの可聴域にはこれらの周波数域が含まれる可能性が高い(表1)。
  • 人間の可聴域は20Hzから20kHzであるため、20kHzより高い周波数の音は超音波と呼ばれているが、超音波をニホンジカは聴くことができる。
  • 実験の1試行目では、音を聴く反応が平均74秒発現したが、2試行目以降の反応発現時間は8?17秒に減少したため、ニホンジカは音に対して素早く慣れる可能性がある(図2)
  • どの周波数の音に対しても忌避や嫌悪反応を示す供試個体はいない。

成果の活用面・留意点

  • ニホンジカが、超音波を忌避もしくは嫌悪する可能性はきわめて低いため、超音波を被害対策に用いるべきではない。
  • 超音波の提示による環境の変化でニホンジカがそれを警戒して一時的に侵入を抑制する可能性もあるが、本質的に超音波を忌避・嫌悪していないため必ず慣れる。
  • ICT機器等の電子機器を利用してニホンジカを捕獲する場合、作動時等に機器から人間の聴覚では確認することのできない超音波が発生することも考えられる。ニホンジカを効率的に捕獲するためには、捕獲檻や装置に対する警戒をできる限り早期に解かせることが重要であるが、電子機器からの発生音がニホンジカに対して過度の警戒を誘発させることにより、捕獲効率の低下が考えられる。そのため、捕獲に用いる電子機器は、ニホンジカの可聴域である20kHz?50kHzまでの超音波も発生していないかを確認する必要がある。

具体的データ

表1 試験音に対する供試個体の反応?図1 実験場所の概要?図2 提示順における供試個体の音に対する反応発現時間(平均値+SD)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2016年度
  • 研究担当者:堂山宗一郎、江口祐輔、上田弘則、石川圭介
  • 発表論文等:堂山ら(2017)西日本農業研究センター研究報告、17:1-11