収益向上と飼料生産コストの3割低減を可能とする水田作複合経営モデル

要約

たちすずか等の茎葉型WCS用稲の乾田直播と、WCS用トウモロコシの安定多収栽培を基幹部門とする水田作複合経営モデルは、飼料用米中心の慣行営農と比べ、同じ労働力のもとで経営面積拡大と所得増加、飼料増産、飼料生産コストの3割減が可能である。

  • キーワード:水田作経営、たちすずか、乾田直播栽培、トウモロコシ、飼料生産コスト
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話0854-82-2257
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

大規模の水田作法人経営では、主食用米の需要減少下で主食米に替わる作物を基幹とする収益性の高い営農の構築が模索されている。その一つとして、飼料作を基幹部門とする営農の展開が期待される。そこで、主食用米に加え、飼料用米やWCS用稲の多収品種、WCS用稲の乾田直播栽培、WCS用トウモロコシ生産に取り組む経営の各作目の作業労働や収益性を分析し、その結果を基に飼料作を基幹とする最適な水田作経営モデルを提示するとともに、飼料生産コスト低減等の効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 転作田におけるWCS用トウモロコシは、額縁明渠等の排水対策により飼料用米の3倍、WCS用稲の2倍の収量(TDN)が得られる(表1、図1)。販売収入及び限界利益は主食用米に次いで高く、交付金を加えた収益も飼料用米等を上回る。また、作業労働時間も2期作で稲1作よりも少ない(表1)。他方、WCS用稲の乾田直播栽培の作業労働時間は移植栽培よりも約1.3時間/10a少なく、水稲の春作業のピークの緩和が図れる(図2)。
  • この結果、主食用米(特栽米)と大麦(二毛作)に加えて、汎用型収穫機を用いた、移植及び乾田直播栽培による多収のWCS用稲(たちすずか)、WCS用トウモロコシ生産、及びこれらの収穫受託を基幹とする水田作複合経営モデルは、飼料用米を基幹とする慣行営農と比べて、同じ労働力のもとで経営面積は1.6倍の約65ha(作付面積は91ha)、所得は1.7倍に向上し、時間当たり労働報酬額も1.4倍に増加するなど、規模拡大や収益性向上に寄与する(表2)。
  • 複合経営モデルの飼料生産量(TDN)は慣行営農の2倍以上と高く、飼料生産コストは慣行営農比3割減のTDN1kgあたり96円に低下するなど、飼料増産と飼料生産力の強化に寄与する(表2)。
  • 慣行営農と比べて作業労働ピークの緩和が図れ、3月~4月はWCS用稲の乾田直播とWCS用トウモロコシ播種、5月~6月は主食用米及びWCS用稲の育苗と移植、7月~8月はWCS用トウモロコシの収穫と播種、9月はWCS用稲の収穫受託、10月は主食用米の収穫、11月はWCS用稲とWCS用トウモロコシの収穫に農作業の分散が図れる(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:水田作法人経営、飼料作コントラクター
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:圃場の排水向上対策が可能で鳥獣害の受け難い地域・WCS用稲の乾田直播栽培10ha、WCS用トウモロコシ作付30ha(岡山平野、2020年)。
  • 留意点:シハロホップブチル抵抗性ノビエ発生圃場では、WCS用稲の早期乾田直播栽培を避ける。
  • その他:2017年4経営体、延べ15haでWCS用トウモロコシが作付され、7戸の畜産経営から1200t(延べ30ha分)のトウモロコシWCSの購入希望が寄せられている。

具体的データ

表1 作目別の収量、収益、作業労働時間、飼料生産量等の比較(実証経営体);表2 複合経営モデルの最適な作付構成と経営成果;図2 水田作複合経営モデルの月旬別作業労働時間


その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:千田雅之、藤本寛、望月秀俊
  • 発表論文等:千田ら(2018)新近畿中国四国農業研究、1:28-39