黒毛和種繁殖牛に対する「たちすずか」WCSの飼料特性を活かした飼料設計

要約

「たちすずか」WCSは非繊維性炭水化物(NFC)が高く、粗蛋白質(CP)が低い飼料である。要求量に対するCP不足を補った上で、飼料全体のNFCと分解性蛋白質(DIP)の比率(NFC/DIP)を5.0~6.0程度にすると、分娩後に良好な繁殖性が維持できる。

  • キーワード:「たちすずか」WCS、黒毛和種繁殖牛、非繊維性炭水化物、分解性蛋白質
  • 担当:西日本農業研究センター・畜産・鳥獣害研究領域・繁殖技術グループ
  • 代表連絡先:電話 0854-82-1285
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

飼料イネ「たちすずか」は茎葉部の糖含量と繊維の消化性が高い特性を持ち、ホールクロップサイレージ(WCS)調製すると発酵品質や非繊維性炭水化物(NFC)が高く、粗蛋白質(CP)が低い飼料特性を示すWCSが生産される。「たちすずか」WCSは発酵品質が高いため、ウシの嗜好性も良いが、肉用種繁殖牛への給与においては、NFCが高く、CPが低い飼料特性を念頭に置いた、適切な飼料設計と給与が重要となる。肉用種繁殖牛に対する飼養管理においては、ルーメン内で、生息する微生物の増殖基質となる分解性蛋白質(DIP)と活動エネルギー源であるNFCのバランスが、胚採取成績に影響する事が示されており、このバランスは分娩後の繁殖成績に影響する事も想定される。そこで、黒毛和種繁殖牛に対して「たちすずか」WCSを取り入れた飼養管理を行い、生産性(分娩後の繁殖性)への影響を明らかにし、高生産性が維持できる飼養管理技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 分娩予定1ヶ月前から授乳期(分娩後3ヶ月間)に、「たちすずか」WCS10kg/day(原物)と乾草(原物で4~6kg)を併用給与する場合、濃厚飼料(配合飼料、大豆かす、ヘイキューブ)による調整で、飼養標準の養分要求量はほぼ充足できる(表1)。
  • 黒毛和種繁殖牛の体重推移は、飼料として「たちすずか」WCS給与を取り入れても、乾草主体給与の慣行飼養管理と変わらない。授乳期の体重に大きな減少はなく、栄養状態は良好に維持できている。また、子牛の発育も慣行飼養管理と変わらない(図1)。
  • 黒毛和種繁殖牛のCP充足率が80%以上の条件下で、給与飼料全体のNFCとDIPの比率(NFC/DIP、「低」4.0未満、「中」4.0~5.0、「高」5.0~6.0)によって分娩後の繁殖成績を比較した場合、「たちすずか」WCS給与を取り入れた飼養管理では、この比率を5.0~6.0程度に調整すると、分娩後の良好な繁殖性(空胎期間80日以下など)を維持できる(図2)。
  • 「たちすずか」WCSと併用給与する乾草種が異なっても、濃厚飼料による調整でNFC/DIPの値を5.0~6.0に調整することができる(表2)。
  • 「たちすずか」WCSの飼料特性を考慮した飼料設計で飼養管理を行えば、黒毛和種繁殖牛の能力を適切に引き出すことができる。

成果の活用面・留意点

  • 「たちすずか」WCSは、TDN60%前後、発酵品質優良で、黒毛和種繁殖牛の嗜好性が高いもののみを給与し、ロールフィルムの損傷による二次発酵やカビや顕著な酵母発生が認められたものは使用しない。
  • 妊娠末期から授乳期の黒毛和種繁殖牛に対して「たちすずか」WCS給与を行う場合、今回提示した飼料設計に基づいて飼養管理を行えば、分娩後の優良な繁殖性を維持できると考えられるが、実際の飼料設計、給与の際には用いる飼料の成分分析を行い、微調整することが必要である。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:大島一修、後藤裕司、堤道生、大谷一郎、山本直幸
  • 発表論文等:
  • 1)大島(2016)日本胚移植学雑誌、38:87-95
    2)農研機構(2016)「画期的WCS用稲「たちすずか」の特性を活かした低コスト微細断収穫調製・給与マニュアル」 http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/warc/061846.html (2016年2月29日)