水稲の無代かき栽培および疎植導入時の温室効果ガス排出量評価(LCA)

要約

水稲の慣行栽培技術と新規導入技術(無代かき・疎植)の環境影響評価(LCA)を行うと、秋田県の無代かき栽培では温室効果ガス排出量が主に田面からのメタン発生量の減少により約30%削減されるが、疎植の効果はわずかである。

  • キーワード:環境影響評価(LCA)、温室効果ガス、水稲、無代かき、疎植
  • 担当:西日本農業研究センター・生産環境研究領域・土壌管理グループ
  • 代表連絡先:電話084-923-5339
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、水稲作では経営面や環境保全に配慮した新しい栽培技術が導入されている。例えば、濁水削減に効果的な無代かき栽培、省力低コスト技術である疎植栽培、水田からのメタン発生を抑制する中干し期間の延長等の技術がある。技術導入にあたり、これらの技術が目指す効果は検討されているが、それ以外の側面についての影響評価が検討された事例は少ない。
そこで濁水削減に効果的な無代かき栽培と省力低コスト技術である疎植栽培について、これらの技術導入による温室効果ガス(GHG)排出量を環境影響評価(LCA)手法を用いて明らかにし、地球温暖化に及ぼす影響を慣行の栽培技術と比較して評価する。

成果の内容・特徴

  • 秋田県大潟村(八郎潟干拓地)の粘質な細粒質斑鉄型グライ低地土の重粘土水田にて、栽培技術のライフサイクルを7過程(資材等製造、田面からの排出、燃料、機械製造、化学肥料製造、有機肥料製造、農薬製造)に分け、面積あたりGHG排出量(CO2換算値)を評価したところ、田面からの排出過程が排出量全体の80~87%を占める。
  • GHG排出量は、無代かき栽培導入によって代かき栽培より約30%削減され、高いGHG抑制効果を示す。田面からの排出以外の過程の排出量は同程度である(図1)。
  • 田面からのメタン排出量は、無代かき栽培導入によって代かき栽培より36%減少する。これは灌水を移植直前まで遅らせることにより土壌還元化が抑制され、メタン発生量が減少するためである(図2、Ehデータ省略)。
  • 疎植栽培導入時のGHG排出量は、苗数を慣行の約7割(21株/m2から15株/m2)に減らすことによって苗箱やシートの使用量が減るため、資材等製造過程のGHG排出量が慣行より6%減少するものの、全排出量への影響はわずかである(図3)。
  • 疎植と慣行植で田面からのメタン排出量に有意差はなく、抑制効果はない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 環境影響評価の結果を、現地での栽培技術選択の際に参考となる指標のひとつとして提示できる。
  • 無代かき栽培は、代かきをしない代わりに、ロータリーでの耕起後、ドライブハローで2~3回砕土する方法であり、濁水排出がないため水質保全効果も高い。
  • 疎植栽培は、栽植密度を慣行より少なくする栽培技術の総称である。
  • GHG排出量は、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の排出量を地球温暖化係数IPCC GWP 100a(2013)(気候変動に関する政府間パネル報告書が示す100年間の影響)を用いてCO2あたり排出量に換算している。LCAソフトウェア(PRe Consultants社製SimaPro)のインベントリデータとプロセスを利用して解析する。
  • 本試験では技術導入による収量変動はみられない。

具体的データ

図2 代かき区・無代かき区のメタン発生量(疎植時);図3 慣行植区・疎植区の排出過程別温室効果ガス排出量(代かき時)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2016年度
  • 研究担当者:志村もと子、林清忠、高橋英博、伊藤千春(秋田県農試)、渋谷允(秋田県農試)、松森堅治
  • 発表論文等:Shimura et al. (2017) JARQ、51(2):155-164