ナスの促成・半促成栽培における飛ばないナミテントウの定着を促進する代替餌システム

要約

ナスの促成および半促成栽培において、アルテミアと天敵温存植物を組み合わせた代替餌システムを導入すると、代替餌システムを導入しない場合に比べて、飛ばないナミテントウの放飼頭数を半分以下に減らしても十分なアブラムシ防除効果が得られる。

  • キーワード:飛ばないナミテントウ、アルテミア、天敵温存植物、アブラムシ、施設ナス
  • 担当:西日本農業研究センター・生産環境研究領域・虫害管理グループ
  • 代表連絡先:電話084-924-5338
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

飛ばないナミテントウ(以下、トバテン)は、施設野菜類の天敵製剤として実用化されているが、化学農薬に比べてコストが高いこと、またトバテンの捕食により圃場内のアブラムシが少なくなると餌不足によってトバテン成幼虫の死亡が起きやすく、防除効果が持続しないことが課題となっている。一方、ブラインシュリンプ耐久卵(以下、アルテミア)や天敵温存植物などの代替餌を圃場に導入することで、餌不足による死亡が減少し、防除効果を持続させることによって放飼回数、放飼頭数、およびコストの削減が期待される。そこでナスの促成栽培および半促成栽培において、飛ばないナミテントウの定着を促進する代替餌システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 代替餌システムは、アルテミアと糖分を麻紐に貼り付けた資材(以下、アルテミア資材)および天敵温存植物(スイートアリッサムまたはスカエボラ)で構成される(図1)。糖分を混ぜて供与することでトバテン幼虫のアルテミアへの食いつきが良くなり、羽化時の奇形化が改善される。アブラムシ密度が低い状況では、トバテン幼虫はアルテミアを食べて発育し、羽化後は天敵温存植物の花粉等を食べて定着する。
  • アルテミア資材は、トバテン製剤の放飼と同時に、トバテンが放飼されるナス株を中心に3~5株上に、株あたり紐長70~80cmを1本設置する。アルテミアは、結露等により水分を吸収することで代替餌として機能するようになる。有効期間は、25°C条件では設置から10~15日ほどで、放飼されたトバテン幼虫は10日程度で蛹化する。
  • 天敵温存植物の苗は、ナス10株に対して1株をナス苗の定植と同時に混植する。半促成ナスではスイートアリッサムをナスの株間に、促成ナスではスイートアリッサムを株間・株間と畝肩の中間・畝端に、スカエボラを植える場合は日当たりの良い畝端等に植栽する。これらの天敵温存植物は、開花期間中は常に餌資源を提供し、トバテン成虫の定着を長期的に補助する(図1)。
  • 半促成栽培および促成栽培において、代替餌システムを導入した区ではトバテン幼虫の放飼回数を減らし、放飼頭数を代替餌システムを導入していない区の35~39%に減らしてもトバテン成幼虫の発生数は同等以上で、十分なアブラムシ防除効果が得られる(図2、図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:普及・指導機関および施設ナス生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の促成および半促成ナス等の施設ナス圃場(約1,080ha)のうち、1~2%の面積で利用される。
  • 代替餌システムを導入した区では、代替餌の導入に伴う資材費や労賃を含めても、導入しない区の50~60%程度にアブラムシ防除にかかる経費を抑えられる。
  • コレマンアブラバチ等を併用し、圃場全体のアブラムシの増加を寄生蜂が抑え、アブラムシの発生が増加し始めたナス株上にトバテンを放飼するという防除体系が有効である(金子ら、2018)。
  • アザミウマの天敵であるスワルスキーカブリダニ、タイリクヒメハナカメムシ、タバコカスミカメに対しても、代替餌システムの導入による定着促進が期待できる(農研機構、2019)。
  • 代替餌を活用した飛ばないナミテントウ利用技術マニュアルは農研機構のWebサイトで公開されている。またアルテミア資材は、(株)アグリセクトより販売されている(商品名:天敵用餌ひも)。
  • 代替餌システムの詳細な利用方法や使用上の注意点等については、「代替餌を活用した飛ばないナミテントウ利用技術マニュアル(施設ナス栽培編)」に記載されている。

具体的データ

図1 代替餌システム適用ナス栽培施設,図2 ナスの半促成栽培での代替餌システムによるトバテンの定着促進効果,図3 ナスの促成栽培での代替餌システムによる天敵類の定着促進効果

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:世古智一、安部順一朗、三浦一芸、大鷲友多、金子修治(大阪環農水研)、城塚可奈子(大阪環農水研)、柴尾学(大阪環農水研)、綱島健司(岡山農研)、松岡寛之(岡山農研)、槙野祐子(岡山農研)、飛川光治(岡山農研)、徳田誠(佐賀大)、小原慎司(アグリ総研)、手塚俊行(アグリ総研)、伊藤健司(アグリ総研)、井村岳男(奈良農総セ)、吉住隆司(石川農総セ)
  • 発表論文等: