早生・短稈で製パン性に優れる硬質小麦新品種「はるみずき」

要約

「はるみずき」は「せときらら」より早生で、短稈で倒伏に強い硬質小麦である。収量は「せときらら」と「ミナミノカオリ」の中間のやや多収であり、蛋白質含量は「せときらら」より高い。小麦粉の生地物性が強く、製パン性に優れる。

  • キーワード:小麦、早生、短稈、製パン性
  • 担当:西日本農業研究センター・水田作研究領域・麦類育種グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-7497
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

一般に小麦は、子実収量が多くなると子実の蛋白質含量が低下する。パン用小麦品種「せときらら」は製パン性に優れるが、子実収量が多くなるために蛋白質含量が高まりにくく、そのため、製パン性を十分に発揮できないことがある。また、稈長がやや長いため生育状況によっては倒伏する危険があり、生産者や実需者からは、倒伏しにくく、多収で、安定して子実の蛋白質含量が多く、製パン性の優れた品種が要望されている。そこで、短稈化により耐倒伏性を改良し、収量性を「せときらら」より低減して蛋白質含量を増加させ、また、製パン性のさらなる向上のため小麦粉の生地物性を強めた品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 小麦「はるみずき」は、パン用小麦品種「ミナミノカオリ」を母、日本めん用小麦「中国151号(ふくほのか)」に硬質性の遺伝子Pina-D1bと高分子量グルテニン遺伝子Glu-D1dを導入した準同質遺伝子系統を父として交配したF1を母とし、準同質遺伝子系統を父として一回の戻し交配を行った後代から育成された品種である。
  • 育成地では「せときらら」と比べて出穂期は3日、成熟期は2日早い。稈長は短く、耐倒伏性は強い。穂長は長く、穂数は同程度である(表1)。
  • 子実重は「せときらら」対比で1割程度少なく、「ミナミノカオリ」対比で1割程度多い。「せときらら」と比べて容積重は同程度、千粒重はやや小さく、外観品質は同程度である(表1)。
  • 特性検定試験では、穂発芽性、赤かび病抵抗性、うどんこ病抵抗性、コムギ縞萎縮病抵抗性(I型)はいずれも"中"である(表2)。
  • 「せときらら」と比べて、原粒蛋白質含量はやや高い。原粒灰分は同程度である(表3)。
  • 製粉歩留、ミリングスコアは「せときらら」よりやや低い。アミロース含量はやや低く、小麦粉の糊化特性は最高粘度が高く、ブレークダウンは大きい。60%粉の明度は同程度だが、赤みはやや高く、黄色みがやや低い(表3)。
  • 「せときらら」と比べて、バロリメーターバリューが高く小麦粉の生地物性が強く、製パン性に優れる(表3、表4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:小麦生産者、食品関連業者
  • 普及予定地域・普及予定面積:栽培適地は温暖地以西の平坦地。小麦では醤油の原料として蛋白質の多い品種が利用されており、大分県において主に醸造用(醤油)として栽培され、収量低下が問題となっている「ミナミノカオリ」と「ニシノカオリ」に替えて奨励品種に採用予定で、普及予定面積は2023年に800ha。
  • その他:パンや醤油等の用途に適した蛋白質含量が得られるよう実肥を施用する。

具体的データ

表1 「はるみずき」の生育特性、収量性および子実特性,表2 「はるみずき」の障害・病害耐性および播性,表3 「はるみずき」の原麦品質、製粉、小麦粉の品質特性,表4 「はるみずき」の実需者による品質評価

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2007~2018年度
  • 研究担当者:高田兼則、谷中美貴子、伴雄介、加藤啓太、石川直幸、船附稚子、池田達哉
  • 発表論文等:高田ら「はるみずき」品種登録出願第33494号(2018年11月13日)