水稲作の省力化と高品質化の両立可能な圃場基盤の改良と生産管理技術

要約

圃場の緩傾斜による迅速な入排水、堆肥連年施用と深耕による地耐力及び根域環境の向上、高畦と深水管理、成苗移植により、大型機械体系で省力かつ品質の高い減農薬・減肥の水稲栽培が可能になり、水稲作中心の営農でも収益性の向上がはかれる。

  • キーワード:中山間地域、水田作、堆肥連年施用、省力化、高品質化
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8874
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田作経営では大規模化に伴い雇用型法人が増加しているが、雇用の安定確保を図る上で収益性の高い営農体系の構築が課題となっている。そこで、中山間地域において、大型機械体系により作業効率を高めるとともに、堆肥連年施用や深耕等により品質の高い主食用米生産を行い、高い収益性を確保する雇用型法人(T法人:図1の注記)の生産管理技術と、それを可能にする圃場基盤の改良、経営成果等を、同規模の集落営農法人(A法人)と比較しつつ明らかにする。

成果の内容・特徴

  • T法人では、水田に対して均平による圃場の緩傾斜(2/10000程度)、段差圃場下の明渠施工、堆肥の連年施用及び高畦と畦シート埋設などの圃場基盤の改良によって、水稲作の省力化と高品質化の両立を実現している(図1)。
  • 省力化は、それらの圃場基盤の改良による迅速な入排水と地耐力向上により可能となっている。すなわち、大型機械体系による耕起作業等の高速化、農閑期の均平作業の実施と、それによる代かき作業の省力化、畦近傍の移植作業の削減及び圃場内のトラクタ走行による畦畔除草が可能となり、水稲作の省力化が実現されている(図1)。
  • この結果、T法人では、A法人と比較して、耕起・整地、代かき、播種・育苗及び畦畔管理作業で大幅な削減効果がみられ、水稲作の作業労働時間は、A法人の15.7時間/10aに対して40%も少ない9.5時間/10aを実現している(図2)。
  • 米の高品質化は、堆肥連年施用、プラウ耕と、高畦と深水管理によりもたらされている。すなわちこれらにより成苗移植と根域の広い稲の育成が可能になり、減農薬・減化学肥料栽培及び良食味米の生産が行われている(図1)。
  • その結果、T法人では、通常の「コシヒカリ」販売価格200円/kg(農協手数料を引き去り後)に対して平均300円/kgの価格水準を実現している(表1)。また、時間当たり労働報酬はA法人の5,197円に対して、32%も高い6,858円となるなど収益性の高い営農を実現している。

成果の活用面・留意点

  • 限られた労働力でより広い水田を管理しつつ、収益を確保する営農方法のひとつとして活用が期待される。
  • 時間当たり労働報酬の計算の基となる労働時間には、機械整備・精米労働などを含まない。また、費用には一般管理費を加算していないことに留意されたい(販売管理費は加算済み)。

具体的データ

図1 圃場基盤整備の特徴と省力化と高品質化の両立を可能にする生産管理(T法人),図2 水稲作業労働時間の比較,表1 水稲作の収益性の比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:坂本英美、千田雅之
  • 発表論文等:坂本、千田(2019)農業経営研究、56(4):53-58