日本とニュージーランドの子牛生産コストの格差とその要因

要約

ニュージーランドの子牛生産コストは日本の大規模経営平均の約7分の1であり、コスト格差の主な要因は周年親子放牧に加えて、自然交配、輪換放牧と哺育能力の高い繁殖牛選抜、ケール等を利用した冬季飼養、キャトルヤードでの集畜と個体管理による。

  • キーワード:肉用牛、放牧、国際比較、飼料用ケール、キャトルヤード
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8874
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肉用牛繁殖経営及び子牛生産頭数が減少傾向に推移する中で、国土資源を活用し労働生産性及び収益性の高い繁殖経営モデルの提示が求められている。そこで本研究では、土地利用型畜産の先進国であるニュージーランドの生産管理及び生産コストを、わが国においてコスト低減を実現している周年親子放牧実施経営等と比較し、格差の実態とその要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 労働費込みの子牛生産1頭あたりのコストは日本の大規模経営平均の475千円に対して、九州北部に位置するF農場では279千円であり約4割のコスト低減がはかられている。これはF農場が周年親子放牧を行うことにより、繁殖・診療・牛償却費、飼料費・敷料費(自給飼料費を含む)、労働費(労働時間)が著しく低減されるためである(図1)。
  • ニュージーランド、及び同国北島の丘陵地帯で肉用牛と羊の複合経営を行うM農場の生産コストは、F農場の約4分の1である。コスト格差の大きい費目は、繁殖・診療・牛償却費、飼料費・敷料費、労働費であり、このうち飼料費・敷料費は全体のコスト格差207千円の約6割(120千円)を占める(図1)。
  • 繁殖・診療・牛償却費の格差は、F農場の人工授精に対してM農場では自然交配を行っていること、育成方法の違いにより育成費が大きく異なること等による(表1)。
  • 飼料費・敷料費の格差は、F農場では子牛に放牧時に慣行舎飼と同量の濃厚飼料を与え、冬季は稲WCSを購入し与えているのに対して、M農場では輪換放牧により栄養価の高い短草状態での放牧飼養や、哺育能力を重視した改良と選抜等により、濃厚飼料を給与しないでF農場と同等の発育を確保していること、冬季は飼料用ビートやケールを直接放牧牛に採食させていることによる(表1、図2)。
  • 労働費の格差は、冬季の給餌方法の違いに加えて、F農場では毎日2回の集畜とスタンチョン繫留、補助飼料給与を行いつつ個体観察を実施しているのに対して、M農場では月1回程度のキャトルヤードでの集畜と効率的な処置を実施していることによる(表1、図3)。

成果の活用面・留意点

  • 飼料用ケール等による冬季放牧技術、繁殖性や哺育能力を重視した育種改良等は、生産性や収益性向上に資する技術として日本への適用が期待される。
  • ニュージーランドでは肉用牛と羊の複合経営が一般的なため、コスト分析は経営全体の費目を繁殖牛頭数に換算し、為替はNZ$1=80円で計算している。
  • M農場はヘレフォード種の種畜生産を行うため、ニュージーランドの同地区の生産コスト(統計値)58千円よりやや高いが、雄子牛の販売価格は1頭あたり200千円と高い。

具体的データ

図1 子牛生産コストの比較,表1 肉用牛繁殖経営における放牧飼養下での生産管理方法の比較,図2 飼料用ケールによる繁殖牛の冬季放牧(M農場),図3 集畜・個体管理方法の比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」、28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:千田雅之
  • 発表論文等:千田(2019)農業経営研究、56(4):71-76