熟性遺伝子E2とE3が温暖地におけるダイズ品種「エンレイ」の収量形成に及ぼす影響

要約

熟性遺伝子E2およびE3の導入により、温暖地(福山)におけるダイズ品種「エンレイ」の生育期間は延長するが、生殖生長期間への作用性は両遺伝子間で異なる。6月中旬播種では収量差は認められないが、7月中旬播種では総節数の増加により両遺伝子を導入する系統で収量が高まる。

  • キーワード:ダイズ、熟性遺伝子、収量、収量構成要素
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・転換畑多収栽培グループ
  • 代表連絡先:電話084-923-4816
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

熟性遺伝子がダイズの生育に及ぼす影響の解明は、ダイズ多収品種育成および栽培時期の選択において極めて重要な知見となる。近年、国内の代表的なダイズ品種である「エンレイ」を背景とした熟性遺伝子E2E3の準同質遺伝子系統が開発され、基礎的な農業形質について報告されているが、収量形成過程に関する知見は不足している。そこで、本研究では「エンレイ」(e2e3)と熟性遺伝子E2およびE3を導入した準同質遺伝子系統3系統(e2E3E2e3E2E3)を温暖地(福山)において6月中旬播種と7月中旬播種の2作期にて群落栽培し、収量および収量形成過程への影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 温暖地(福山)では6月中旬播種、7月中旬播種ともにE2遺伝子とE3遺伝子は出芽から開花始期までの期間(栄養生長期間)を延長する。両作期ともに栄養生長期間においては両遺伝子間で有意な交互作用はみられない。E2遺伝子は開花始期から成熟始期まで(生殖生長期間)の期間も延長し、生殖生長期間においてはE2遺伝子とE3遺伝子の間に交互作用がみられる(表1)。
  • E2遺伝子を導入する場合の生殖生長期間の延長の効果はE3遺伝子背景よりもe3遺伝子背景のほうが大きい。またe2遺伝子背景でE3遺伝子を導入する場合は生殖生長期間を延長するが、E2遺伝子背景でE3遺伝子を導入する場合には生殖生長期間を短縮する(表1)。
  • 6月中旬播種では供試する系統間で収量に有意な差はみられない一方で、7月中旬播種ではE2遺伝子型およびE3遺伝子型で収量が増加し、E2E3遺伝子両方を導入する系統で最も収量が高い(図1)。
  • E3遺伝子型では両作期において総節数が増加する。6月中旬播種ではe2e3遺伝子型と比較してE2E3遺伝子型では着莢率が低下するが、7月中旬播種では系統間で着莢率に有意な差はみられない(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 播種密度は両播種時期ともに条間60cm、株間15cmとし、生育期間中に灌漑を行い水ストレスの少ない水田転換畑およびライシメータで実施した試験である。生育期間中には農薬散布により病害虫防除を適宜実施している。6月中旬播種の結果はフラワーネットを用いた倒伏防止措置を施して得られたものである。
  • 現在中国地方において普及している品種「サチユタカ」はE2e3型であり、温暖地向け晩播用品種の育成に今後E3遺伝子が活用できる可能性がある。
  • 今回は品種「エンレイ」背景におけるE2遺伝子とE3遺伝子の効果を明らかにしたが、背景となる品種の違いや他の熟性遺伝子との組み合わせが及ぼす影響についても今後検討する必要がある。

具体的データ

表1 それぞれの熟性遺伝子が品種「エンレイ」の栄養生長期間および生殖生長期間に及ぼす影響(値は福山における2カ年の平均値),図1 6月中旬播種(黒色)と7月中旬播種(白色)における各系統の子実収量(水分含量15%)の平均値,図2 6月中旬播種(左)と7月中旬播種(右)における各系統の個体あたり総節数と着莢率(%)の平均値,

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:川崎洋平、山崎諒、片山勝之、山田哲也、船附秀行
  • 発表論文等: Kawasaki Y. et al. (2018) Plant Prod. Sci. 21(4):387-397