拍動灌水装置による夏秋トマト栽培で尻腐れ果発生を抑制する施肥方法

要約

日射量対応型自動灌水装置(拍動灌水装置)と肥効調節型肥料(CRF)を組み合わせたトマト養液栽培において、アンモニア態窒素が少ないCRFを分施することにより、夏秋期に多発する尻腐れ果の発生を大幅に抑制できる。

  • キーワード:夏秋トマト、拍動灌水装置、肥効調節型肥料、尻腐れ果
  • 担当:西日本研究センター・傾斜地園芸研究領域・傾斜地野菜生産グループ
  • 代表連絡先:電話0877-63-8125
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

夏秋トマトの養液栽培では、日射量対応型自動灌水装置(拍動灌水装置、H22研究成果)を用いて、肥効調節型肥料(CRF)を溶出タンクに全量基肥として投入することで簡易かつ低投入型の肥培管理が可能であり、施設栽培の隔離床でも排液循環方式におけるトマト低段密植栽培に適用できる。しかし、夏秋期においては、尻腐れ果の発生による収量の低下が課題である。そこで、夏秋トマト栽培において尻腐れ果発生を抑制するために、その発生要因とともに適切な施肥条件を解明する。

成果の内容・特徴

  • 用いる拍動灌水装置の構成は、(1)ソーラーパネルで発電した電力で水中ポンプを駆動して溶出タンクからCRFが溶出した養液を拍動タンクへ汲み上げ、(2)溶液が拍動タンク内で一定水位に達すると水位センサーにより圧送ポンプ(AC100V電源駆動)が動作して灌水が開始され、(3)拍動タンク内が一定水位に低下すると灌水を停止する間欠的な灌水方式であるとともに、排液を溶出タンクに戻す循環方式である(図1)。
  • 給液中の総窒素量に占めるアンモニア態窒素の割合は、液肥を使用してEC濃度管理を行う養液栽培では10%前後で推移するのに対して、1作分の施肥の全量を基肥としてCRFで施用する従来方法では、20%以上の期間が長い(図2)。
  • CRF全量を1回で施用する従来法では、給液中のアンモニア態窒素の割合が上昇しカルシウムの吸収が阻害されること、定植後間もない施用直後の給液ECが高まり(図3)草勢が強くなることにより、尻腐れが多発する。
  • アンモニア態窒素の含有量が少ない組み合わせのCRFを分施し、給液中のアンモニア態窒素濃度を低下させ(図2)、施肥直後の給液ECの上昇を抑制することにより(図3)、尻腐れ果発生を抑制できる。可販果収量は、3月および7月播種においてEC濃度管理と同等となる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 低段密植栽培(株間20cm条間15cm、4段摘心、5果に摘果)における結果である。
  • 試験に用いたアンモニア態窒素の含有量が少ないCRFの組み合わせは、エコロングトータル313・40日タイプ、ロングショウカル40日タイプ、エコカリコート70日タイプ(以上、ジェイカムアグリ(株))、マグホスコートS(多木肥料(株))であり、他のCRFでは検討していない。
  • CRFの分施は、定植時に全体の1/5量、2・3回目にそれぞれ全体の2/5量とした。給液のECを定期的に測定し、CRFの追加は給液ECが1.0dS・m-1を下回った時点で行う必要がある。
  • 生産農家でこの技術を用いる場合は、溶出タンク内にバーク堆肥を投入し、エアーポンプで曝気させる硝化処理を行って、給液中のアンモニア態窒素を減少させる必要がある。

具体的データ

図1 日射量対応型自動灌水装置とCRFを利用した簡易肥培管理システム,図2 給液中の総窒素量に占めるアンモニア態窒素の割合,図3 給液ECの推移,表1 可販果収量および尻腐れ果の発生率

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(26補正「革新的緊急展開」)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:矢野孝喜、木下貴文、杉浦誠、川嶋浩樹
  • 発表論文等:矢野ら(2018)農研機構報告 西日本農研、18:53-64