ハウス内を局所冷却するトマト2次育苗装置「作物育成システム」による果実増収効果

要約

「作物育成システム」は、農POフィルムによって仕切られた枠内を簡易設置型パッドアンドファン装置(簡易PF)で冷却するシステムである。本システムはハウス内で使用し、このシステム内で約2週間2次育苗したトマト苗の使用により、定植後の果実収量が約30%増加する。

  • キーワード:作物育成システム、簡易設置型パッドアンドファン装置、局所冷却、2次育苗、トマト
  • 担当:西日本農業研究センター・作物開発利用研究領域・環境保全型野菜生産グループ
  • 代表連絡先:電話084-923-5389
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

中山間地と平坦地が近接する近畿中国四国地域では、冷涼な中山間地の雨よけ栽培や温暖な平坦地の抑制栽培等によって、トマトが周年供給されている。しかし、抑制栽培では、夏季に育苗後定植するため、着果数の減少や花落ち等によって9~10月の生産量が低下する。この問題に対しては、冷涼な中山間地で育苗した良質な苗を、平坦地の抑制栽培本圃に供給する産地間連携が有効であるが、近年、中山間地でも夏季の気温が上昇傾向にあり、トマトの育苗に際し、さらに苗冷却の対策が必要となっている。一方、小規模園芸施設の冷却装置として、簡易PFが開発されている。そこで、育苗時の高温を抑制するため、簡易PFでトマト苗を効率的に冷却する「作物育成システム」を開発、中山間地のトマト生産施設に導入し、苗冷却による増収効果を平坦地の抑制栽培で明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「作物育成システム」は、簡易PFと、園芸支柱で育苗ベンチ上に組み上げられた枠で構成される。本システムの枠上面は農POフィルムと不織布で、側面と底面は農POフィルムで覆われており、簡易PFから放出された加湿冷気は、トマト苗の冷却後に不織布から枠外へ排出される(図1、写真1)。また、枠のサイズは最大幅約5m×奥行き0.9m×高さ0.75mとする。
  • 枠内では簡易PF前面の枠内中央に農POフィルムを2枚設置し、加湿冷気が枠内を均等に流れるようにする(図1-B、C内、緑矢印で図示)。
  • 本システム内では、システム外に比べ中央部(簡易PF前面)において約8°C、先端部(枠の両端)において約5°C、晴天日の最高気温が低下する(図2)。なお、簡易PFは日中のみ稼働させる。
  • 本システムの増収効果を実証した事例では、慣行の抑制栽培と比べて中山間地で2次育苗した苗を抑制栽培に供給することで9月~10月収穫が可能となり、中山間地の2次育苗に本システムを導入することで可販果数および可販果収量がさらに約30%増加する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 簡易PFは、揖斐川工業(株)によって注文生産されており、規格は100V、幅1.2m×奥行き0.3m×高さ0.5mの筐体である。筐体前面にはパッドと点滴チューブが、後方には送風ファンが組みこまれ、送風ファンで取り込まれた空気は、パッドから加湿冷気として放出される。2週間の育苗期間中にかかる電気料金は約300円である。
  • 本システムでは、本葉第3葉展開時のセル成型苗を、無肥料のセル苗用培養土を充填した9cmポリポットに鉢上げし、約2週間2次育苗する。また、枠内では条間15cmの6条、株間20cmの千鳥にポリポット苗を配置し、配置密度を約33本・m-2とする。これにより、このシステムでは最多約150本育苗できる。
  • かん水方法は、培養液を点滴かん水する。枠内では加湿冷気によってポットが乾きにくいため、かん水回数およびかん水量を控える。
  • 育苗12日目あたりから葉の相互遮蔽により密植気味になるので、徒長する前に苗を定植する。

具体的データ

図1 作物育成システム(A:平面図、B:枠内部、C:側面図),写真1 側面の農POフィルムを開いた作物育成システム,図2 作物育成システム内での位置が気温の日変化に与える影響(2次育苗期間、2015年7月22日~8月5日、簡易PF稼働時間、6:00~20:00),図3 可販果数および収量に対する作物育成システムの影響(2次育苗期間、2015年7月22日~8月5日)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(26補正「革新的緊急展開」)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:村上健二、杉浦誠、村井恒治(徳島農総セ)、鈴江康文(徳島県経営推進課)、川嶋浩樹、吉越恆
  • 発表論文等:
    • 村上ら「作物育成システム」特開2016-165253(2016年9月23日)
    • 村上ら(2018)新近畿中国四国農研、1:7-19