β-グルカン含量が極めて高く、炊飯後に褐変しにくいもち性六条裸麦新品種候補「フクミファイバー」

要約

「フクミファイバー」は、amo1遺伝子とアミロース欠失のもち性遺伝子を併せ持ち、β-グルカン含量が極めて高い六条裸麦である。整粒収量が高く、プロアントシアニジン欠失遺伝子(ant28)も有し、炊飯保温後の色相変化が少ない。

  • キーワード:ハダカムギ、多収、もち性、高β-グルカン、プロアントシアニジン欠失
  • 担当:西日本農業研究センター・作物開発利用研究領域・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先:電話0877-62-0800
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大麦には水溶性食物繊維のβ-グルカンが豊富に含まれており、もち性大麦(もち麦)はうるち性よりβ-グルカン含量が高く食感も良いことから、近年急激に需要が伸びている。西日本農研でこれまでに育成したもち性裸麦品種「ダイシモチ」と「キラリモチ」はうるち性の普及品種と比べると収量性が低い。またこれまでに育成された極高β-グルカン含量品種・系統は、いずれも"しわ粒"で粒の充実が悪く整粒歩合が劣るという欠点があった。
そこで、極高β-グルカン含量でありながら整粒歩合が良く、「キラリモチ」のようにプロアントシアニジン欠失で炊飯麦が褐変しにくい、多収のもち性裸麦品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「フクミファイバー」は、高β-グルカン含量・もち性・プロアントシアニジン欠失を育種目標として、「GlacierAC38」由来のamo1遺伝子と「四国裸97号」由来のwax遺伝子を持つ「四R系3755」を母親、「ant28-2131」由来のant28遺伝子を持つ「四系9814」を父親として交配を行い、系統育種法により育成した渦性の六条裸麦である。
  • 播性程度はVで、「イチバンボシ」よりも出穂期で1日、成熟期は3日程度遅い(表1)。
  • 「イチバンボシ」と比べ、稈長・穂長がやや長く、穂数が多い。容積重・千粒重はやや軽く整粒歩合が低いが、整粒収量は高い(表1)。
  • オオムギ縞萎縮病には強いが、うどんこ病・赤かび病には罹病し、穂発芽性は"易"である(表1)。
  • アミロース欠失のもち性であり、amo1(高アミロース)遺伝子も併せ持つと推定される(図1)。
  • このためβ-グルカン含量が極めて高く(従来のもち性品種の約2倍、うるち性品種の約3倍)、従来のもち性品種と比べても、穀粒硬度が高く、60%歩留まり搗精時間が長く、砕粒率が低い(表1、表2)。
  • 精麦白度は低いが、ant28遺伝子を持つプロアントシアニジン欠失系統であり、炊飯後の褐変程度が極めて少ない(表2、図2)。

成果の活用面・留意点

  • 栽培上の注意点として、交雑を避けるため他品種と隣接して栽培しない。成熟期がやや遅く、穂発芽性が"易"であり、外観品質もやや劣るので、適期播種・適期収穫に努める。
  • 兵庫県福崎町と岡山県美作市において、既存の"もち麦"品種とは異なる新たな高付加価値の大麦原料として加工利用するために2019年産から作付けしており、今後は需要を見極めながら生産拡大を図る予定である。

具体的データ

表1 「フクミファイバー」の特性,図1 amo1遺伝子に連鎖するCAPSマーカー(SSIIIa),表2 「フクミファイバー」の精麦品質特性,図2 60%搗精麦の炊飯保温後の褐変過程

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)
  • 研究期間:2008~2018年度
  • 研究担当者:高橋飛鳥、吉岡藤治、杉田知彦、長嶺敬、柳沢貴司
  • 発表論文等:吉岡ら「フクミファイバー」品種登録出願公表第33464号(2019年2月13日)