高リジン変異の導入による大麦穀粒のGABA及び遊離アミノ酸含量の増加
要約
大麦に高リジン変異を交配により導入すると、穀粒のGABA及び遊離アミノ酸含量が増加するため、高リジン変異導入麦は育種素材や食品素材として活用できる。
- キーワード:大麦、高リジン変異、GABA、アミノ酸、血圧
- 担当:西日本農業研究センター・作物開発利用研究領域・特産作物利用グループ
- 代表連絡先:電話029-838-8011
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
高齢化や生活習慣の変化により生活習慣病、認知症、及びがん等が増加し、個人が自分の体調に合わせてヘルスケアをする必要性が高まってきた。大麦は身近な食材であり、含有するβ-グルカンは、LDL-コレステロールの低下機能や糖の吸収を穏やかにする機能をもつことから、その濃度を高めた品種育成が進められている。一方、大麦にはアミノ酸のリジン含量が高まる変異が知られており、この変異の導入により、遊離アミノ酸や血圧の改善に関与するGABA含量の増加が期待される。
そこで、本研究ではβ-グルカンに加えて、アミノ酸を豊富に含む、複合的な機能性をもつ大麦の育成や食材としての利用を目指して、高リジン変異を導入した大麦の各成分含量を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 「四国裸84号」と、それぞれlys1遺伝子をもつ「Hiproly」、lys3a遺伝子をもつ「Riso M1508」、lys5h遺伝子をもつ「Riso M86」との戻し交配(それぞれBC5、BC5、BC3)により育成した系統の精麦及び全麦は、交配親と比べて、GABA含量が有意に高くなる(図1)。また、「Hiproly」は全麦よりも精麦のGABA含量が高く(p <0.01)、「四国裸84号(lys1)」は、その性質を受け継ぐ(p <0.05)(図1)。
- 新規に見出されたlys5i遺伝子をもつ「しわ粒」はだか麦系統「谷系QM1」と「北陸皮48号」もしくは「北陸皮49号」の交配後代から選抜した「新系GNT237」及び「新系GNT239」では、精麦及び全麦のGABA含量が、通常形の交配親よりも有意に高くなる(図2)。
- 「四国裸84号」に各高リジン変異を導入した育成系統の全麦の遊離アミノ酸19成分の合計量は、交配親と比べて有意に高くなる(図3)。なかでも「四国裸84号(lys3a)」の高値は際立っており、グルタミン、アスパラギン、プロリン、アルギニンの順に高く、それぞれ381、302、218、及び149mg/100gである。その他、機能性表示食品の関与成分として届出のある分岐鎖アミノ酸(BCAA)の含量は、バリン、イソロイシン、及びロイシンが、それぞれ59.4、31.5、及び35.1mg/100gである。
- lys5i遺伝子をもつ「新系GNT237」及び「新系GNT239」の種子全粒粉の遊離アミノ酸合計量は、通常形の交配親よりも有意に高くなる(図4)。「新系GNT237」と「新系GNT239」のアミノ酸組成は類似しており、「新系GNT239」では、グルタミン酸、アスパラギン、及びアラニンの順に高く、それぞれ72.1、57.3、及び55.1mg/100gである。
成果の活用面・留意点
- 「四国裸84号(lys1)」種子は通常形であり、粒食によるGABAの摂取が効果的である。5割炊き炊飯物では、GABA含量の目標値は20mg/100g以上である。
- lys3a遺伝子を導入した種子は、ややしわ粒、lys5h及びlys5i遺伝子を導入した種子は、しわ粒になるため、精麦には不適であり、全粒大麦粉としての用途が想定される。
- 各成分含量の栽培年次及び栽培地間の変動幅を把握する必要がある。
- アミノ酸の分析では、ピークに夾雑物が混じるためトリプトファンは測定していない。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2015~2018年度
- 研究担当者:野方洋一、齋藤武、阿部大吾、吉岡藤治、長嶺敬、中田克
- 発表論文等:中田ら(2018)育種学研究、20(2):124-132