放牧畜産導入により農林地資源管理と収益確保が可能となる集落営農モデル

要約

零細圃場の多い中山間地域の集落営農では、水稲作付面積を縮小し、複数の牧草や飼料作物の計画的作付けと繁殖牛及び子牛の周年放牧飼養を導入することで、農業従事者の減少と米価低下のもとでも農林地資源の管理と他産業なみの所得確保、中山間地域の繁殖牛の増頭が可能になる。

  • キーワード:中山間、集落営農、肉用牛、放牧、営農計画モデル
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

中山間地域では、農林地資源の省力的管理と高い収益性の確保可能な農林業経営の構築が喫緊の課題となっている。その対応方策の一つとして、放牧飼養による肉用牛部門の導入が期待されている。そこで、零細圃場をかかえる中山間集落営農法人に、水田や里山への畜産利用の展開による課題解決の可能性と条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 中国中山間で一般的な集落営農および国内外の先進的肉用牛経営の放牧技術等を素材とした営農計画モデルを構築し、労働力の減少や米価低下のもとで、さまざまな飼養体系で肉用牛部門を導入した場合の経営成果等を試算したものである(表1)。
  • 稲作中心の現行営農では、現状労働力でも農林地資源を持て余すが、将来、労働力が半減すると、農地利用面積をさらに縮小せざるを得ず、大量の耕作放棄地が発生する(表2-(1)(2))。
  • 肉用牛繁殖部門の導入は、専従者の所得確保の機会となるが、周年舎飼では給餌や排せつ物処理等の作業が多くなるため、土地利用面積の拡大にはそれほど寄与しない(表2-(3))。放牧飼養にすると、繁殖部門の所得向上と土地利用面積の拡大を図ることが可能となる。その場合、妊娠牛に限定した放牧ではそれらの効果は小さく(表2-(4))、放牧地を団地化して定置放牧を採用し、子牛を含むすべての繁殖牛を放牧対象とすることにより、耕作放棄田の解消と他産業なみの所得確保が可能となる(表2-(6))。
  • 複数の牧草やイネ、ケール等の新たな飼料作物を組み合わせた周年放牧体系を構築すると(図1)、隣接集落等の農地利用も可能な場合、専従者3人の労働力のもとでも、約53ha(うち水稲約11ha)の農地と105頭の繁殖牛の飼養が可能となり、1人当たり所得は飛躍的に増加する(表2-(7))。
  • 集落内の農地及び里山の利用に限る場合、農地35haのほかに里山約10haの利用が可能になり、林産(原木椎茸生産)により、冬季就労機会の確保(図2)が可能になる(表2-(8))。
  • 親子放牧及び周年放牧方式による繁殖部門が中国地域の農事組合法人に普及した場合、同地域の繁殖牛頭数は、現状の3倍以上に増加することが期待される。

成果の活用面・留意点

  • 労働力の減少により耕作放棄地の増加が懸念される中山間地域の集落営農法人等において、農林地資源の適切な管理と若手専従者の他産業並みの所得確保、そのための肉用牛部門及び放牧導入を検討する際の指針、飼養管理方法などの指標として活用が期待される。
  • 技術係数は、水稲作は専従者5人と補助者5人で水田35haの管理を行う集落営農法人、家畜、放牧、及び林産管理は周年親子放牧及び林畜複合経営を行う事例、ケールの栽培経費、及び牧養力はニュージーランドの事例分析に基づく。
  • ケールの種子は国内では未販売であり、使用にあたっては海外の種苗会社の協力が必要である。

具体的データ

表1 中山間集落営農法人を想定した耕畜林複合経営計画モデルの前提条件等,図1 水田での親子周年放牧体系及び里山の放牧利用,表2 営農体系別の経営成果の比較(試算値),図2 部門別月旬作業労働

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:千田雅之
  • 発表論文等:
    千田(2020)西日本農研経営研究、33:46-59千田(2015)中央農業総合研究センター研究資料、11:95-104千田(2017)農業経営研究、55(3):14-25