肉用牛繁殖経営におけるレープを用いた冬季放牧の導入効果

要約

バヒアグラスによる里山での夏秋季放牧と、レープ及びイタリアンライグラスによる水田での冬春季放牧を組み合わせた周年の親子放牧により、省力・低コストの子牛生産が可能になり、収益性の高い肉用牛繁殖経営の展開及び繁殖牛頭数の増加が期待される。

  • キーワード:肉用牛、レープ、冬季放牧、周年放牧、経営計画モデル
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肉用牛繁殖経営の生産性及び収益性の向上には、放牧飼養期間及び放牧対象牛の拡張が重要なことが明らかにされている。先進経営では妊娠牛のみならず子牛を含めすべての牛を放牧対象とし、周年屋外飼養が行われ、子牛生産コストの低減と高い所得の確保が実現されている。しかし、冬春季の飼料は稲WCS等を購入し与えており、その購入経費や給餌作業が規模拡大等のネックとなっている。このため、海外で普及しているアブラナ科の飼料作物(レープ等)を用いた冬季放牧の導入が国内でも期待される。そこで、レープによる冬季放牧を含む周年放牧体系の経営成果等を、慣行の飼養体系等と比較しつつ明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 周年放牧体系は、バヒアグラス(BG)による里山での夏秋季放牧と、飼料用レープ(FR)及びイタリアンライグラス(IR)による水田での冬春季放牧を組み合わせたものである。冬季放牧飼料のFRの栽培は、補助飼料としてのソルガム(SG)と春季放牧飼料のIRとの2年3作の輪作体系を想定する(図)。経営成果等は、先進事例の営農情報をもとに構築した家族経営(労働力1.5人)による肉用牛繁殖経営計画モデル(表1)を用いた飼養体系別の最適値である。
  • 妊娠牛のみを対象としたBG草地における6か月間の放牧では、子牛生産労働時間は、周年舎飼と比べて1割程度の減少にとどまるが、飼養頭数や所得は3割程度増加する(表2-(1)(2))。水田でFRやIRを栽培し、妊娠牛の周年放牧を行う場合、労働時間は周年舎飼と比べて2割減少し、コストは約1割低減する(表2-(3))。
  • 放牧対象を、子牛を含むすべての牛に広げて、BG草地による夏秋季6か月間の放牧を行う場合、冬季粗飼料は、自家生産するよりも購入し、粗飼料生産の中止により浮いた労働力を飼養頭数の増加に向けた方が所得向上に寄与する。その結果、子牛生産1頭当たり労働時間は周年舎飼より6割以上少ない約41時間に減少し、繁殖牛は約2.5の49頭まで飼養可能になる(表2-(4))。
  • 子牛を含むすべての牛を放牧対象とし、BG、FR及びIRを組み合わせた親子周年放牧体系により、家族労働力で約30haの農用地の利用と繁殖牛70頭の飼養が可能になる。子牛生産1頭当たり労働時間は、周年舎飼(1)より約7割減少し、生産コストは約3割低減する。所得は1000万円を超すことが期待される(表2-(5))。この飼養方式が南関東以西(山陰を除く)のうち繁殖牛10~49頭規模の肉用牛経営に普及した場合、繁殖牛頭数は現行頭数より約7割増加することが期待される。

成果の活用面・留意点

  • 放牧飼養による肉用牛繁殖や酪農の生産性及び収益性向上に資する技術として、試験研究機関等において国内でのレープの栽培技術及び利用方法の開発へ活用が期待される。
  • レープの種子は国内では未販売であり、使用にあたっては海外の種苗会社の協力が必要である。
  • 親子放牧の実施には、放牧用地を団地し、定置放牧を行う必要がある。

具体的データ

図 里山と水田を利用し複数の牧草を組み合わせた周年放牧体系,表1 肉用牛繁殖経営計画モデルの前提条件等,表2 放牧対象、放牧期間別の経営成果の比較(試算値)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:千田雅之
  • 発表論文等:
    • 千田(2016)農業経営研究、54(2):91-96
    • 千田(2019)農業経営研究、56(4):71-76
    • 千田(2019)西日本農研農業経営研究、31:1-120
    • 千田(2020)西日本農研農業経営研究、33:60-71