中山間地域におけるマルチコプタを用いた小麦の赤かび病適期防除支援技術

要約

播種機の走行軌跡より圃場別播種日を同定し、Microsoft Excel上でのマクロプログラムによりメッシュ農業気象データおよび小麦開花期予測モデルを用いて圃場別の防除適期を表示し、これに基づき省力的なマルチコプタを運用することで赤かび病の適期防除を支援する技術である。

  • キーワード:小麦開花期予測モデル、適期防除、マルチコプタ、赤かび病、Microsoft Excel
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・機械作業・情報グループ
  • 代表連絡先:電話 084-923-4816
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

多数の小区画や不整形の圃場を有する中山間地域では、機械の大型化や高速化で作業を効率化するのは困難である。麦の赤かび病の防除作業は開花期から1週間の間に防除を行う必要があるが、これは水稲の育苗田植え時期にあたり、計画的に省力的に作業を進める必要がある。本技術では、現地の小麦生育データより、播種日と気象データから開花期を推定するモデルを作成し、これを用い圃場別播種日と当年および平年の気象データから圃場毎の開花期の予測を行う。これにより、事前に防除作業計画を立てるとともに、中山間地域で導入が進んでいるマルチコプタを運用することで適期防除を実現する。

成果の内容・特徴

  • Excelマクロプログラムで作成した防除適期表示システムは、GPSトラッカーシステムで収集された播種機走行軌跡データにより圃場別播種日を推定し、この播種日と日平均気温,日長のデータを用い小麦開花期予測モデルにより圃場別開花期を計算し、圃場図上に色分け表示する(図1)。予測当日から26日先まで予報値を利用するメッシュ農業気象データを用いることで、作業計画に利用できる。
  • 既存の小麦発育モデルを改良し、小麦の低温要求性を考慮した開花期予測モデルを用いて開花期を播種日以降の気象データを用いて予測する。福山市、東広島市現地法人、山口市において得たデータを使用して、従前利用されてきたモデルと新たに開発したモデルの精度を比較したところ、2日程度従前の手法と比べて予測誤差を小さくし、おおむね3日以内の誤差で開花期を予測できることを確認している。
  • マルチコプタによる防除ではブームスプレーヤと比較して圃場内の作業能率が約3倍高い。また、ブームスプレーヤの作業能率は圃場面積が小さくなるに従い大きく低下するのに対し、マルチコプタによる防除の場合は、圃場面積が小さくなっても作業能率はほとんど低下しない(図2)。
  • 実際のブームスプレーヤ(丸山製作所 BSA-500)で作業した1筆の圃場面積が15a以下の圃場群(14筆)を対象に、現地で測定したマルチコプタ(エンルート Zion AC940-D)の作業能率に基づき、マルチコプタでの作業時間を推定すると、マルチコプタによる作業時間はブームスプレーヤより 55% 短縮できると見込まれる(図3)。
  • 赤かび病防除の場合、穂への薬剤の付着濃度はマルチコプタの方がブームスプレーヤより高く、防除上問題ないと考えられる(表1)。なお、残留農薬濃度は基準以下である(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 多くの小面積圃場を管理する集落営農法人等において、適期防除を行うための支援技術となる。
  • 中山間地域でマルチコプタによる防除作業を検討している地域において、導入についての参考となる。
  • 本技術は中山間地域である広島県東広島市に適用した結果であり、小麦の開花期予測モデルについては広島県の奨励品種である「キヌヒメ」を対象に試験した結果である。
  • 2019年のマルチコプタでの薬剤付着試験においては、散布区画外からの約1.8m/sの横風により、散布区画端(風上側)の2条(条間30cm)で薬剤が付着しなかったため、風によるドリフトを受けない条件での散布が望ましい。

具体的データ

図1 小麦赤かび病適期防除の流れ,図2 異なる圃場面積におけるマルチコプタとブームスプレーヤの作業時間の比較,図3 ブームスプレーヤとマルチコプタの1日の作業時間の比較,表1 穂に付着した薬剤濃度の比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:奥野林太郎、川北哲史、孫雯莉、石岡厳
  • 発表論文等:
    • Kawakita S.et al. (2019) J. Agric. Meteorol. 75:120-128
    • 孫ら(2020)農作業研究、55:71-77
    • 農研機構職務作成プログラム(2019)「麦類赤かび病防除適期をマップ表示するMicrosoft Excel用マクロプログラム」機構-M20
    • Kawakita S. et al. (2020) J. Agric. Meteorol. 76:81-88