空中写真を利用したSfM多視点ステレオ写真測量法による基盤整備前地形モデルの推定

要約

既存空中写真を利用したSfM多視点ステレオ写真測量法により、過去の圃場の平均標高を推定できる。従来の紙地図のデジタル化より効率的に構築でき、圃場整備等の人為的地形改変に起因する土壌環境の推定および農村防災対策の基礎情報として活用できる。

  • キーワード:地形、空中写真、SfM多視点ステレオ写真測量、圃場整備、切り盛り土工
  • 担当:西日本農業研究センター・生産環境研究領域・土壌管理グループ
  • 代表連絡先:電話 084-923-4816
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

圃場一筆内の不均一な生育障害は圃場整備前の地形と密接に関係していることがある。例えば、下層土に起因する地力ムラや、水路であったところの地盤沈下、浅礫層の分布、盛土部での湿害の発生などは、過去の地形に起因する圃場内の土壌環境の不均一性に関係しており、基盤整備された圃場の過去の地形を考慮することは重要である。圃場整備前の標高が記載されている圃場整備計画図は、数十年以上も前に発行されたものが多く、土地改良区等で保管されるが散逸していることもあり、入手できても不鮮明な紙地図であることが多く三次元地形モデルの作成は困難である。このため、基盤整備前の地形を復元する手法を確立することが必要である。
そこで、本研究では過去に撮影された空中写真と市販のSfM多視点ステレオ測量(Structure from Motion - Multi View Stereo ;SfM-MVS)ソフトウェアを使用して、圃場整備前の地形を構築し、その再現精度を検証する。

成果の内容・特徴

  • 広島県東広島市の中山間地域農業集落を対象に、解像度1200dpiの空中写真4枚(撮影高度1,950m)をSfM-MVSソフトウェアAgisoft PhotoScan(現Metashape)を用いて合成処理および点群処理を行い構築した数値表層モデルである(図1)。
  • 過去と現在の空中写真に共通して写っている舗装道路や防火水槽など比較的頑強な構造物の標高は変化しないと仮定して、地上標定点17地点および検証点17地点を干渉測位方式(Real Time Kinematic; RTK)の測量により検証した結果、高さ方向の誤差は平地では0.23m、傾斜地では最大1.45mであった。
  • 圃場整備計画図から復元した数値地形モデルと比較した結果、圃場一筆が判別できる精度の地形は概ね再現できた(図2)。大縮尺の旧版地形図が手に入らない場合に、過去の地形を復元する方法として本手法は有効である。

成果の活用面・留意点

  • 現在の地形と比較することで、圃場整備等の人為的地形改変に起因した谷を埋めた盛り土箇所の空間的な把握が可能となることで、効率的な営農計画立案や、法面崩落や地盤沈下、浸水など防災面での対策の基礎情報として活用できる。
  • 使用する空中写真は入手が容易であり、日本全国を対象に国土地理院を中心に蓄積されていることから適用可能範囲は広く、本手法の汎用性は高い。
  • SfM-MVS手法で構築する数値表層モデルは地面標高ではなく植生や構造物等の地物を含んだ表層標高であることに留意する。事前に地物の影響の小さい写真の選定やノイズ除去が推奨される。
  • 使用する写真の撮影高度、枚数、配置等により得られる数値地形モデルの誤差は変化するため、使用する目的に応じて誤差を確認し、事前に検討する必要がある。
  • 国土地理院の空中写真を利用して成果物を公表する場合、測量成果の複製・使用申請が必要な場合があるので、事前に国土地理院に確認する。

具体的データ

図1 空中写真より復元された1974年の幾何補正された合成(オルソモザイク)画像 (a) および数値表層モデル(b),図2 空中写真および圃場整備計画図から推定された三次元地形の等高線

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2019年度
  • 研究担当者:清水裕太
  • 発表論文等:
    • 清水、松森(2020)新近畿中国四国農業研究、3:1-7