障害者の安定雇用や能力発揮のために役立つ作業環境

要約

地域特産野菜等を栽培する園芸経営が障害者を雇用する際、障害者の状況に応じて、1)作業工程の細分化と適切な業務の割当て、2)ユニバーサルデザイン化、3)人的支援の充実化、4)多様な業務を確保することで、障害者の能力発揮や安定雇用ができる。

  • キーワード:園芸経営、障害者雇用、作業工程細分化、ユニバーサルデザイン化
  • 担当:西日本農業研究センター・営農生産体系研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話 084-923-5389
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

障害者が農業の労働力として期待される一方で、障害者を単に安価な労働力として位置づけるのではなく、障害の特性や各障害者に適用される福祉サービスに応じて適切に就労機会が与えられ、能力発揮や安定した継続的な就労を実現することが課題となっている。そこで、特に地域特産野菜等を栽培する園芸経営において、農業経営体が整備すべき作業環境の要件を、障害者の就労形態別に優良3事例の実態を参考に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 障害者の就労形態には、障害者が企業等に雇用される「一般就労」と福祉サービスを活用する「福祉的就労」がある。「福祉的就労」にはA型事業とB型事業があり、A型事業では障害者は福祉事業所と雇用契約を締結し、給与には最低賃金が保証される。B型事業は雇用契約に基づく就労が困難な障害者の就労の場であり、就労時間に制限が少なく、支援者には柔軟さが求められる。
  • 24人の障害者が「一般就労」している水耕栽培(1.3ha)の事例では、作業習得に時間のかからない作目の選定、「作業工程の細分化」、障害特性を考慮した業務の見極め、機械開発・導入等による「ユニバーサルデザイン化」により、無駄のない作業体制、作業能率の向上を実現している(表1、表2)。チンゲンサイの生産では、年17作、1日2万本を出荷している。
  • ハウス6棟(計70a)で年間200万ポット、約50種類の花苗を、農業者から受託生産しているA型事業所では、「作業工程の細分化」と、各工程における職員による丁寧な指導・助言等により、障害者18人に最低賃金を保証した生産活動を行っている(表1、表2)。また、所有農地での野菜栽培や草刈り作業の受託等で「業務内容を多様化」させることにより、就労定着に課題のある精神障害者が多数継続就労できている。
  • 業務用青ネギ(計15ha)を、農地所有適格法人から受託生産しているB型事業所では、「人的支援の充実化」により高い工賃を確保している(表1、表2)。障害者34人に対して職員は35人配置され、2017年度月額平均工賃は49,849円で、全国平均の15,295円を大きく上回る。独自の評価シートを用いて障害者の生活改善を図り、評価結果を作業報酬額に反映させることで、就労態度の改善と安定的な生産活動を実現させている。
  • 就労形態別の作業環境整備の要件として(表3)、「一般就労」では「作業工程の細分化と業務の割当て」、機械導入等による「ユニバーサルデザイン化」が重要であり、「福祉的就労」では「人的支援の充実化」や「多様な業務の確保」により、症状改善と併せて安定的な生産活動を目指す必要がある。特にB型事業では、敢えて作業工程を細分化せず臨機応変な役割分担が必要となる。

成果の活用面・留意点

  • 障害者を雇用する際の参考となる。
  • 障害の種類(身体障害、知的障害、精神障害)が同じでも個人差が大きいことから、障害特性を「個性」として捉える点に留意が必要である。

具体的データ

表1 優良3事例の経営概況,表2 優良3事例における作業環境整備の実態,表3 就労形態別の作業環境整備要件

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2018~2019
  • 研究担当者:中本英里
  • 発表論文等:中本(2019)農林業問題研究、55(3):151-158