自動機械学習による害虫アブラムシ種識別モデルの検証
要約
機械学習プラットフォームGoogle Cloud AutoML Visionを用いて作成した画像分類モデルは、高い精度でソラマメを加害するアブラムシ3種を推定できる。
- キーワード:機械学習、深層学習、画像解析、害虫種識別、アブラムシ
- 担当:西日本農業研究センター・生産環境研究領域・虫害管理グループ
- 代表連絡先:電話 084-923-5389
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
農業害虫の正確かつ迅速な判別は害虫管理の根幹を成すが、種判別の作業は困難を伴う。そこで、画像データから害虫種を識別する技術が開発されてきており、とくに近年は機械学習等のいわゆるAIの活用が注目されている。一般に、画像分類に関する機械学習モデルを作成するためには、プログラミングやモデル構造等の専門的知識と経験が必要とされる。その一方、GoogleやMicrosoft、AppleなどのIT企業は、それほど専門的な知識や経験がなくとも独自の機械学習モデルが作成できる自動機械学習プラットフォームを提供している。例えばGoogle Cloud AutoML Visionは、Webブラウザより教師データ(モデルに学習させるデータ)をアップロードするだけで画像分類の機械学習モデルの作成が可能である。作物や地域によって害虫種構成は異なるため、それぞれのシチュエーションに特化した機械学習モデルを手軽に作成できれば、適切な害虫管理を講じる際に大きな利点になる。そこで、モデルケースとしてソラマメを加害するアブラムシ3種を対象に、Google Cloud AutoML Visionを使用し機械学習モデルを作成し、その精度を比較することで、自動機械学習が害虫種推定に適用可能かどうかを検証する。
成果の内容・特徴
- ソラマメを加害するアブラムシ3種(マメアブラムシ、エンドウヒゲナガアブラムシ、ソラマメヒゲナガアブラムシ)について、飼育下の株上コロニーを撮影し画像データを収集し、トリミング等の加工を施したもの(47 ± 3 kB、96 dpi)を教師データとして用いる(図1)。野外のアブラムシコロニーの画像を同様に加工したものをテストデータとし、作成したモデルの精度(正答率)を比較すると、多くの教師データを使用して作成したモデルほどより高い正答率が得られる(図2)。
- 画像を左右上下に反転させることで教師データ量を増やす(データ拡張;データ量が4倍)と、モデルの精度が向上する(図2)。
- テストデータのアブラムシ種によってモデルの正答率が異なり、マメアブラムシに対する正答率は他の2種と比較し高い。
- 種あたり400枚の教師データを用いデータ拡張する場合、平均99%の正答率が得られることから、Google Cloud AutoML Visionは害虫種の推定に有用であると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 今回作成した機械学習モデルは画像分類を目的としており、一枚の画像中に一種類のアブラムシが含まれることを前提に作成されている。したがって、複数のアブラムシ種を含む画像を考慮していない。
- 機械学習による画像分類モデルは、「学習した種のうちのいずれか」を推定するため、未学習の種を考慮しない。
- 本結果は、Google Cloud AutoML Visionを使用して害虫種を推定するモデルを構築する際のひとつのガイドラインになる。しかし、推定したい種や種数、教師データの質によってモデルの精度が変わる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2018~2019年度
- 研究担当者:林正幸、玉井一彦(アース製薬(株))、大鷲友多、三浦一芸
- 発表論文等:Hayashi M. et al. (2019) Appl. Entomol. Zool. 54:487-490