野外における刈取牧草の水分率評価のための波長の組み合わせ

要約

圃場に天日干し中の刈取牧草の水分率は、次の2波長(バンド)の分光反射率の組み合わせと、決定係数0.76―0.88の相関関係がある:(550nmと500nm)、(660nmと550nm)、(735nmと450nm)、(770nmと660nm)。

  • キーワード:乾草、水分率、野外計測、分光波長、正規化植生指数
  • 担当:西日本農業研究センター・畜産・鳥獣害研究領域・先端放牧技術グループ
  • 代表連絡先:電話 0854-82-0144
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

良質な乾草の給与は、牛の飼養にとって重要であるが、乾草生産はその調製過程において天候に大きく左右されることから、適切な水分率(15-20%)で収穫しにくく、品質不良なものも少なくない。良質な乾草生産のためには、圃場で自然乾燥中の刈取牧草に対して、その現在の水分率を把握して梱包・収穫あるいは反転作業の継続などの判断を下すことが望ましい。
現在、刈取牧草の水分率を迅速に測定する方法として、電子レンジを用いる方法が推奨されている。身近な機器利用による簡易な方法として利点を持つが、圃場からサンプルを抽出し機器を設置した室内まで持ってくる移動の手間が必要である。一方、野外において、携帯型分光計測器を用いた牧草の粗タンパク含量の測定が行われている。刈取牧草の水分率についても、分光反射率を利用して野外で推定できれば、良質な乾草生産のための水分率の適切な判断を迅速に行うことが可能である。
本研究では、圃場における刈取牧草の水分率推定を行う上で、水分率と相関の高い分光波長の組み合わせの探索を行う。

成果の内容・特徴

  • 圃場で天日干しによる乾草調製中の刈取牧草の分光反射率(400-900nm)を測定し、その直下の刈取牧草の水分率を乾燥機を利用して測定する。2波長を組み合わせた正規化分光反射指数(NDSI, Normalized Difference Spectral Index、(バンド1―バンド2)/(バンド1+バンド2))を全ての組み合わせで算出し、その指数と刈取牧草の水分率との関係について直線回帰分析を行うと、相関(決定係数)の高い2波長の組み合わせが明らかになる(図1)。
  • 刈取牧草の水分率と相関の高い波長の組み合わせは以下の4つである:(緑色光1(550nm)、緑色光2(500nm))、(赤色光(660nm)、緑色光1(550nm))、(レッドエッジ(735nm)、青色光(450nm))、(近赤外光(770nm)、赤色光(660nm))。これらの組み合わせを用いた回帰直線の決定係数は0.76―0.88である(図2)。
  • 赤色光と近赤外光を組み合わせたNDSIは正規化植生指数(NDVI, Normalized Difference Vegetation Index)として知られる。NDVIを計測できる市販の機器(GreenSeekerハンドヘルド作物センサー、株式会社ニコン・トリンブル社)を利用して、刈取牧草の水分率との相関をみると、その決定係数は0.79と高い(図3、4)。

成果の活用面・留意点

  • 今後、牧草水分率の回帰直線の精度を上げ実用に供するためには、乾燥速度の異なる草種ごとの検量線の作成が必要である。また、サイレージ調製のための水分率推定への活用も期待でき、今後データの蓄積が必要である。
  • 本方法は植物のクロロフィルなど色素体の分解を分光反射率の変化からとらえることにより、間接的に水分率を推定している。それゆえに途中雨にあたって水分率の増加が起こった牧草の水分率の推定には適さない。
  • 本器(GreenSeekerハンドヘルド)は現在販売を終了している。NDVIを測定できる他メーカの市販機器の利用については現在データがなく今後の検証が必要である。

具体的データ

図1 2波長(2バンド)から計算された正規化分光反射指数(NDSI)による牧草水分率推定の回帰直線の決定係数の分布,図2 各正規化分光反射指数NDSIと牧草水分率(%)との関係,図3 携帯型分光計測器による天日干し中の牧草の正規化植生指数(NDVI)の測定の様子,図4 携帯型分光計測器により得られた正規化植生指数(NDVI)と牧草水分率(%)との関係

その他

  • 予算区分:交付金、戦略プロ(人工知能)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:林志炫、渡邊也恭、吉利怜奈
  • 発表論文等: