コムギ・オオムギの発育段階を整理し分かりやすい調査基準を提案

要約

コムギ・オオムギの発育調査基準を、幼穂の発育を中心に約40年ぶりに整理し直した提案である。また、海外の麦作でよく用いられるZadoksの成長スケールと日本でよく使われる発育段階との対応を明らかにしている。

  • キーワード:オオムギ、コムギ、発育調査、幼穂分化程度、Zadoksの成長スケール
  • 担当:中日本農業研究センター・転換畑研究領域・畑輪作システムグループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

日本のコムギ・オオムギの収量・品質を安定させるためには、生育状況に応じた精密な栽培管理が必要である。そのために必要な発育調査の基準は、1950年代から1980年代にかけてまとめられた論文や資料が基になっているが、その後の品種や栽培方法の変化に伴い、発育段階と外観の生育量がずれるなど、適期作業に支障をきたすケースが見られるようになっている。また、地域や研究者によって調査基準が若干異なる場合もあり、相互の情報に対し誤解が生じることも懸念される。一方海外では、穀類の生育を外観から判断する方法であるZadoksの成長スケール (Growth Stage : GS) が麦類においても広く使われているが、日本でよく使われる発育段階との対応は明らかになっていない。そこで、麦類の発育調査基準の再整理に取り組み、近年の育成品種に適合し、国際基準への準拠も考慮した、分かりやすい発育調査基準を提案する。

成果の内容・特徴

  • 麦類の発育上重要な時期である「出芽期」「茎立期(茎立ち期)」「出穂期」等や、定義が曖昧であった「分げつ期」「幼穂形成期」等の時期について、過去の文献を参照して整理した調査基準である。
  • 北海道から九州の現在のコムギとオオムギの発育経過を観察・調査し、発育段階と外観の生育量との間には品種や栽培地域によって変異があることを示している。一例として、節間伸長の速度が急速に高まり、追肥時期として重要な「茎立期」の葉齢は6~10、個体あたり茎数は3~20本の範囲であり、発育段階と外観の生育量には変異が見られる(図1)。
  • 海外の麦作でよく用いられるZadoksの成長スケール (Growth Stage : GS) と、日本でよく使われる発育段階との大まかな対応を示している(図2)。
  • コムギについては北部関東地域、オオムギについては北陸地域において、現在栽培されている品種の幼穂の発育を詳細に調査し、過去の文献も参照して情報を整理し、幼穂分化程度の説明と調査基準をカラー写真付きで示している(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本情報の図は論文の図の抜粋である。
  • 重要な発育段階の定義と調査基準の統一に役立ち、麦類の発育データが蓄積されることを通して、データ駆動型生産への貢献が期待される。
  • Zadoksの成長スケールは、作物の発育を外観から判断する指標であるため簡便であり、生産現場で効果的に活用できる可能性がある。発育段階と外観の生育量との間には、品種や栽培地域によって変異があることから、品種・栽培地域ごとに対応を明らかにする研究が必要である。

具体的データ

図1 オオムギの発育段階と外観の生育量,図2 Zadoksの成長スケールと主要な発育段階とのおおまかな対応,図3 コムギとオオムギの幼穂発育過程の様子と調査基準 (コムギとオオムギの二重隆起形成期、コムギの頂端小穂形成期およびオオムギの頴花分化期)

その他

  • 予算区分:交付金、科研費 JP20K06005、JP20H03110
  • 研究期間:1998~2020年度
  • 研究担当者:松山宏美、島﨑由美、渡邊和洋、福嶌陽
  • 発表論文等:松山ら(2022)日作紀、91:76-87