要約
カスミカメムシ類による斑点米被害の多発要因である、籾の内外穎鉤合部に存在する隙間を検出するための、籾を染色する新たな調査法を提案する。この染色調査法は、目視調査では分からない狭小な隙間を検出することが可能であり、過小評価が少ない調査方法として利用できる。
- キーワード : 斑点米、割れ籾、染色、アカスジカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメ
- 担当 : 中日本農業研究センター・水田利用研究領域・作物生産システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
稲の穂を加害するカスミカメムシ類2種(アカスジカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメ)は、内穎と外穎との隙間から玄米を加害し、斑点米被害を生じさせる。被害多発要因として指摘される割れ籾(内穎と外穎の間に隙間がある籾)の発生率は、籾の目視調査によって求められる。ただし、内外穎の鉤合部は複雑なので、目視調査ではカメムシが加害できる狭小な隙間を見落とす可能性がある。籾の加害されやすさを評価したい場合、できるだけ過小評価が少ない方法が望ましい。そこで、本研究では、精米歩合の確認に使用される染色法(May-Grünwald染色法を改良した新MG染色法)を参考に、目視調査よりも高い精度で籾の隙間を検出する方法を確立する。
成果の内容・特徴
- 作成した染色調査方法は、前処理(水浸漬)3分→ 脱水→染色3分(メチレンブルー0.05 %水溶液)→水洗・風乾→籾摺り→粒厚選(1.8 mm)→検鏡の手順である。わずかでも鉤合部下の玄米表面が染まっていたら、隙間ありと判定する(図1、図2の写真)。
- 目視調査で「隙間から玄米が見える籾」、「内穎辺縁部が見える籾」および「鉤合不良に見えない籾」と判定された籾のうち、染色調査でも隙間ありと判定された籾の割合はそれぞれ90 %以上、70 %前後、10 %前後である。調査を繰り返した場合の結果の違いは小さく(図1)、調査法の再現性は高い。
- 被害籾のうち、染色調査で隙間ありと判定された籾の割合は、「隙間から玄米が見える籾」および「内穎辺縁部が見える籾」では90 %以上であり、「鉤合不良に見えない籾」では被害様相によるが70 %または30 %前後である(図2)。染色調査では、目視調査で見落としてしまう隙間の検出ができている。
- 被害籾のうち、染色調査で隙間ありと判定された割合は、目視調査で割れ籾(隙間から玄米が見える籾+内穎辺縁部が見える籾)と判定された割合と同等以上である。染色調査は目視調査よりも、隙間検出率およびそのばらつきが改善される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 被害原因の調査や防除技術の研究の際に、カスミカメムシ類に加害されやすい籾の割合の調査法として染色調査は利用できる。ただし、カスミカメムシ類に加害されにくい籾がどのくらい染まるかは調査していないので、染色調査の過大評価の程度については不明である。
- 染色調査は目視調査よりも調査労力がかかるが、目視調査で割れ籾率が低いサンプルの調査法として適している。
- この調査は、被害原因の調査や農薬のみに頼らない栽培技術の研究に活用できる。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 竹内博昭
- 発表論文等 : H. Takeuchi (2023) Appl. Entomol. Zool. 58(1):113-120