要約
水稲品種「にじのきらめき」は出穂後20日間の日平均気温が28°Cの高温でも一等米の目安である整粒歩合70 %程度を維持できる。その優れた高温登熟性のメカニズムには、高温でも穂温が上昇しにくい高温回避性があり、穂が群落の中に隠れる草型が関係すると推察される。
- キーワード : 高温回避性、高温登熟、水稲、整粒歩合、穂温
- 担当 : 中日本農業研究センター・水田利用研究領域・作物生産システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年温暖化に伴う登熟期の高温による玄米の外観品質低下が問題となっている。日本で最も広く栽培されている「コシヒカリ」では、出穂後20日間の日平均気温が27°C以上になると、玄米の整粒歩合が顕著に低下すると報告されている。水稲品種「にじのきらめき」は、高温でも整粒歩合が低下しにくい高温登熟性に優れた品種として普及が進んでいる。しかし、どの程度高温に対して強いのか、その高温登熟性がどのようなメカニズムによって強化されたのか、については分かっていない。そこで、本研究では「にじのきらめき」の高温登熟性について、玄米外観品質を定量的に評価するとともに、高温登熟性を強化する育種に基盤的な情報を提供するために、メカニズムの一端を解明する。
成果の内容・特徴
- 玄米外観品質に大きく影響を及ぼす出穂後20日間の日平均気温の上昇に伴って、「コシヒカリ」では整粒歩合が大きく低下するのに対して、「にじのきらめき」では低下が緩やかである(図1)。両品種の回帰直線から日平均気温が28°Cの場合、「コシヒカリ」は整粒歩合70 %を下回るが、「にじのきらめき」は70 %程度を維持できる。
- 登熟期の午前11時から12時(気温や日射量が安定して高い時刻帯)の「にじのきらめき」の穂温の実測値は、特に高温条件下において、「コシヒカリ」より低い(図2の実測値)。
- 農研機構農業環境研究部門が開発した穂温推定モデル(IM2PACT:Yoshimoto et al. 2011. J. Agric. Meteorol.)のパラメーターのうち、穂への直射日射量や穂の周りの葉の蒸散による冷却効果に関するパラメーターを調整したところ、穂温の推定値が実測値に近似する(図2)。
- 3.の結果より「にじのきらめき」の登熟期も穂が群落の中に隠れている草型(図3)は、穂への直射日射量を少なくする効果、また穂の周りの葉の蒸散による冷却効果の恩恵を受けやすくする効果、をもたらすと推察される。以上のことから、「にじのきらめき」では気温が高い時にも穂温が上昇しにくい『高温回避性』を有すると考えられる。品種の高温登熟性はこれまで「高温耐性」という概念で評価されてきたが、『高温回避性』という概念による評価も重要である。
成果の活用面・留意点
- 出穂後20日間の日平均気温が28°C以上となると、「にじのきらめき」においても整粒歩合は70 %を下回るので、普及地では作付けスケジュールに留意する。
- 「にじのきらめき」の出穂期は「コシヒカリ」とほぼ同じである。
- 本研究ではデンプン蓄積能力等の高温耐性に関する品種間差については評価できていない。
- 高温耐性と高温回避性を併せ持つ系統を育成することにより、高温登熟性がより強化された品種の育成が期待できる。
具体的データ
その他