要約
冠水処理後のダイズ種子には、吸水にともなって種皮が子葉から大きく剥離する過剰吸水種子が認められ、過剰吸水種子の出芽率は、通常種子に対して30分以内の冠水処理でも低くなる。過剰吸水種子のうち、子葉間へ浸水する種子では子葉組織の亀裂が認められる。
- キーワード : ダイズ、種子、出芽、湿害
- 担当 : 中日本農業研究センター・転換畑研究領域・畑輪作システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
梅雨期にダイズ播種が行われる地域では播種後の種子が土壌の高水分条件に曝され、急激な吸水にともない出芽は不良となる。そのため、ダイズ栽培の作業体系においては冠水しにくい条件となるよう、適切な排水対策作業や播種機を選定することで出芽環境の適正化を図ることが求められる。一方、ダイズの出芽不良について、これまで種子の膨潤をともなわない短時間での過剰吸水による出芽不良に関する知見は極めて少ない。そこで本研究では短時間の冠水後の出芽不良、種子の水分局在、および吸水種子の形態について検討する。
成果の内容・特徴
- 冠水処理後のダイズ種子を目視による形態の確認により、3種類に分類、定義した。具体的には吸水にともない種皮が子葉から大きく剥離しない通常吸水種子と、吸水にともない種皮が子葉から大きく剥離する過剰吸水種子に分類でき、過剰吸水種子はさらに子葉間の隙間が確認できないClose種子と隙間の確認できるOpen種子に分類できる(図1)。実験に用いた種子ロットの場合、10分間の冠水処理後に通常吸水種子、Close種子、およびOpen種子が全体に占める割合はそれぞれ83.7%、4.3%および12.0%となる(表1)。
- Close種子、Open種子は、30分以内の冠水処理でも通常吸水種子に対して出芽率が低くなる(図2)。
- 前述の定義により分類した3種類の種子のMRI画像から、過剰吸水種子(Close種子とOpen種子)では種皮と子葉の間へ水が浸入していることが確認できる(図3中のb)。Close種子は、子葉間への浸水(図3中のc)の状況に違いがあり、冠水処理中に子葉間に浸水しない種子(図3-2)と途中からOpen種子と同様に子葉間に浸水する種子が認められる(図3-3)。Open種子では10分間の冠水処理後に子葉間が浸水している(図3-4)。Close種子、Open種子いずれの場合も子葉間が浸水した種子では、子葉組織の亀裂が認められる(図3中のd)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は土壌の高水分条件下におけるダイズの出芽不良のメカニズム解明と出芽不良対策技術の開発、特に排水対策作業や、滞水隔離効果により種子が冠水しにくい状況を作る畝立て播種技術等の利用の検討に有用となる。
- 本成果は「里のほほえみ」を使用した結果である。品種が異なる場合、冠水が種子に及ぼす影響は本成果と異なることが考えられる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究:現場ニーズ対応型プロジェクト)
- 研究期間 : 2022~2023年度
- 研究担当者 : 中尾祥宏、大野智史、関山恭代
- 発表論文等 : 中尾ら(2024)日作紀、93:187-194