要約
早播栽培では、茎立ち期が早まるために凍霜害リスクが高まるが、麦踏みによる茎立ち期遅延によりリスクの軽減が可能である。茎立ち期遅延効果は1~2葉期の麦踏みで高く、小麦発育予測モデルによる推定では、1葉期の麦踏みによって播種早限を3日早めることができる。
- キーワード : コムギ、麦踏み、幼穂分化、凍霜害、早播栽培
- 担当 : 中日本農業研究センター・転換畑研究領域・栽培改善グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
東海地域では水田輪作経営の大規模化が進み、コムギの播種適期(11月中旬)に播種を完了することが困難となっている。播種期間を拡大するためには早播栽培が有効であり、苗立ちが良く生育期間を長く取れる利点がある。しかし、東海地域の作付面積の7割以上を占める春播型品種は低温要求性が低いため、早播きすると茎立ち(幼穂が地上に出る時期)が早まり、早春の低温で凍霜害(幼穂凍死や不稔)に遭遇し減収するリスクが高まる。一方、慣行的に実施されている作業である麦踏みは、幼穂分化を遅らせる効果があり、特に茎立ち期の凍霜害回避効果が期待できるが、その程度や生育への影響の詳細は明らかにされていない。そこで本研究では、春播型コムギ品種「あやひかり」の早播栽培における、茎立ち期遅延に最適な麦踏み時期を明らかにするとともに、麦踏みによる凍霜害回避効果の検証を行い、播種早限に与える影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 茎立ち期頃は-2°C以下の低温で凍霜害が発生する。東海地域の平坦部においては、1月上旬から2月上旬に-2°C以下の低温の頻度が高まるため(図1)、茎立ち期が2月中旬以降になると凍霜害リスクが低下する。
- 麦踏みにより茎立ち期が遅延するため凍霜害リスクを軽減することができ、凍霜害を回避できた場合には、麦踏みをしない場合に比べて収量が増加する(表1、2018年播種)。
- 麦踏みは一般的に3葉期~茎立ち期に行われるが、茎立ち期遅延効果はそれよりも早い1~2葉期の麦踏みで高い(図2)。
- 小麦発育予測モデルによる推定では、1葉期の麦踏みは凍霜害リスクを軽減させ、播種早限を3日早められる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、春播型コムギを早播きするなど、生育が早まりやすい条件で栽培する場合に有効である。
- 本成果は三重県津市において春播型品種「あやひかり」(秋播性程度I~II:低温要求性が低い)の早播き条件での栽培試験で得られたものである。試験では、各年10月29日~11月2日の間に播種(標準的播種期は11月中旬)し、麦踏みにはローラーを備えた小型耕運機を使用している。
- 極端な暖冬年などであまりに茎立ちが早くなると、麦踏みしても十分な凍霜害回避効果や増収効果が得られない場合がある(表1、2019年播種)。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究:現場ニーズ対応型プロジェクト)、環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2018~2022年度
- 研究担当者 : 水本晃那、谷尾昌彦、渡邊和洋、中園江、内野彰、東哲司(神戸大学)
- 発表論文等 :
- Mizumoto A. et al. (2022) Plant Prod. Sci. 25(4):434-439
- Mizumoto A. et al. (2023) Plant Prod. Sci. 26(4):402-410