要約
fra変異により、硝子率および穀粒硬度はうるち性大麦では低下、もち性大麦では上昇する。他方、β-グルカン含有率および空洞粒率はうるち・もち性大麦ともに上昇する。
- キーワード : 大麦、fra変異、硝子率、穀粒品質
- 担当 : 中日本農業研究センター・水田利用研究領域・作物開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
硝子率の低減は精麦品質にも影響を与え、品質ランクの差が生産者の収入にも関係するため最も重要な品質目標である。破砕でんぷん粒(fra)変異はうるち性大麦の硝子率低減に効果的であることが報告されている。しかし、fra変異が他の品質形質に及ぼす多面作用や、fra変異ともち性変異との交互作用は不明である。本研究では「新系G073F(うるち性・fra型)」と「はねうまもち(もち性・野生型)」の交配後代(F6-F7)185系統を用いて、fra変異がうるち・もち性大麦の穀粒品質に与える影響を調査し、育種利用上の利点および留意点を明らかにする。
成果の内容・特徴
- fra遺伝子に存在する変異はdCAPSマーカー「dCAPS-fra-TaqI」で判別できる(図1、図2)。
- fra変異を持つ「新系G073F」を交配親とする後代系統群において、「dCAPS-fra-TaqI」マーカーによるfraマーカー型と穀粒品質形質との関係を検討した結果、fra型のうるち性大麦は、野生型に比べ硝子率は11.3%、穀粒硬度は3.1ポイント低下する。また、原麦β-グルカン含有率は0.3%、空洞粒率は5.4%上昇する(図3)。
- fra型のもち性大麦は、野生型に比べ硝子率は10.9%、穀粒硬度は6.5ポイント、原麦β-グルカン含有率は0.3%、空洞粒率は2.3%それぞれ上昇する(図3)。
- 硝子率の低減が特に重要なうるち性大麦において、fra型の硝子率とβグルカン含有率の相関係数は0.21と低く、「低硝子率・高β-グルカン」を同時に満たす系統の選抜は可能である。
成果の活用面・留意点
- 「dCAPS-fra-TaqI」マーカーにより、fra型を選抜できる。
- fra変異の利用により、うるち性大麦では低硝子率・高β-グルカン・低穀粒硬度(軟質)を目的とした高品質品種の育成が可能になる。
- fra変異によりもち性大麦では硝子率が高まるが、β-グルカン含有率のさらなる上昇に効果がある。
- うるち・もち性に関わらず、空洞粒は精麦加工時に砕粒が発生する原因となる。fra変異はうるち性大麦では顕著な硝子率の低減効果を通じた精麦品質の向上に有効だが、他方で空洞粒率の増加という好ましくない多面作用があるため、fra品種選抜においては空洞粒率に留意する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2022~2023年度
- 研究担当者 : 青木秀之、中野友貴、関昌子、長嶺敬
- 発表論文等 : Aoki et al. (2024) Cereal Res. Commun. 52:825-832