要約
初冬直播き栽培の播種早限は用いる種子の産年により異なり、当年産種子は10月中下旬以降、比較的早い時期の播種が可能だが、前年産種子は11月中旬以降、播種後年内の有効積算気温(基準温度10°C)30°C・日以下を目安とする。前年産種子は室温保管ではなく低温保管し用いる。
- キーワード : 水稲、初冬直播き栽培、播種早限、北陸地域
- 担当 : 中日本農業研究センター・水田利用研究領域・作物生産システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
高齢生産者の離農に伴い地域担い手への急激な農地集積が生じており、経営規模拡大のための革新的な農業技術体系が求められている。水稲初冬直播き栽培は、農閑期の初冬に作付け作業を行うことで規模拡大を可能にする飛躍的な作期分散技術である。作業分散の点では播種適期が長いことが望ましいが、休眠の浅い前年産種子を初冬の中でも比較的気温の高い時期に播種すると、越冬前に発芽・枯死して越冬後の出芽率が低下する恐れがある。初冬直播き栽培では、生産者によって当年産種子と前年産種子を使う場合が想定され、種子の産年に応じた播種早限を明らかにすることは、作業分散と出芽率確保を両立し、普及を進める上で重要な知見となる。
そこで、北陸地域で普及が進み、直播での利用も多い農研機構育成の種子休眠が深い品種「つきあかり」と「にじのきらめき」の当年産種子と前年産種子を用いて上越研究拠点圃場(新潟県上越市)において播種時期を変える試験を行い、北陸地域における播種早限の目安を設定する。加えて、殺菌剤の効果や種子の適切な保管条件に付いても知見を得る。
成果の内容・特徴
- 「つきあかり」および「にじのきらめき」の当年産種子を11月中旬に手播きすると越冬後の出芽率は40~50%であり、殺菌効果のあるチウラム剤を種子に塗布して播種することで出芽率は60~70%に高まる(図1)。当年産種子であれば10月中下旬に播種しても30~55%程度の出芽率が得られる。一方、低温保管(10°C以下)の前年産種子は10月中下旬に播種するとチウラム剤の有無に限らず出芽率は0~3%でしかなく、11月上旬に播種しても出芽率が4~28%と実用レベルでない。11月中旬に播種すると出芽率は30~50%となり、チウラム剤の利用により実用的になる。
- 前年産種子を10月中下旬や11月上旬に播種すると、春季に掘り出した種子には発芽痕がある枯死個体が多く認められ、発芽率が低い(図2)。前年産種子は播種時に種子が休眠覚醒しており、初冬の中でも早い時期の播種では速やかに発芽の生理代謝が進み、その後の低温で死滅するため、越冬後の出芽率が低くなる(図1)。
- 11月中旬の播種でも、低温保管でない前年産種子は越冬後の出芽率が低い(図1)。
- 年内の有効積算地温および有効積算気温(いずれも基準温度10°C)が高いほど、つまり早い時期に播種するほど越冬後の出芽率は低くなる傾向にある(図3)。越冬後の出芽率を高位に保つ有効積算地温および有効積算気温は、当年産種子でそれぞれ100°C・日および110°C・日以下、前年産種子でそれぞれ20°C・日および30°C・日以下であり、これらを播種早限の目安とする。
成果の活用面・留意点
- 北陸地域における水稲初冬直播き栽培の播種時期の判断に用いる。
- 手播き試験では播種深度が安定し、出芽しやすい粒径の土壌を覆土に使用していることから出芽率が機械播種より高くなりやすく、実際の機械播種で出芽率が50%以上になることはほぼない。
- 現場において安定的な収量に資するm2当たり100本以上の苗立ちを得るための播種量の目安は、品種「つきあかり」および「にじのきらめき」を用いて本研究で示した播種早限以降の播種の場合、当年産種子で9~11kg/10a、前年産種子は安全を見越して15~17kg/10aである。
- 他の品種については別途検討を要するが、品種育成情報の中で穂発芽性が「難」の日本型品種であれば、本研究をそのまま適用できる可能性が高い。また、穂発芽性が「易」や「やや易」の品種は、本研究の前年産種子と同様にみなすことで播種適期を考察できる可能性が高い。
- 本研究の種子の保管温度条件は図1の注釈に記す。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2019~2023年度
- 研究担当者 : 大平陽一
- 発表論文等 : 大平(2025)日作紀、94:55-65