北海道の小麦では品種により特定生育段階の降雨・曇天の継続で予測収量より減少する

要約

北海道の小麦収量は、特定の生育段階に降雨や曇天が続くと従来の気象情報から推定される最大可能収量より著しく減少する。過去の主要品種は、穂発芽・赤かび病の発生をもたらす時期の曇天や雨天、「きたほなみ」に移行後は開花期の曇天や雨天が収量の減少に影響する。

  • キーワード:小麦、耐病性育種、気象変動適応策、最大可能収量
  • 担当:北海道農業研究センター・寒地畑作研究領域・スマート畑作グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道は、国内の小麦生産量の2/3を占める主要産地で、主要品種は十数年ごとに耐寒性・耐病性の優れた品種に交代している。品種交代とともに、収量の平年値は増加しているが、年々の変動幅が大きく、収量が低下する理由が分からない年も多い。最大の要因は、6月の開花期以降に生じる気温の上昇や、連続的な曇天傾向であるが、大幅に収量が減少する年が出現する理由が不明である。収量予測精度の向上に向け要因の解明が求められている。

成果の内容・特徴

  • 最大可能収量を算出し、実収量と比較を行った。主要品種が「チホクコムギ」、「ホクシン」、「きたほなみ」の期間の収量ギャップ(最大可能収量と実収量の差)は、それぞれ2.4t/ha、1.9t/ha、1.2t/haと主要品種の交代に伴い縮小する(図1)。
  • 収量ギャップは、特定の生育段階に降雨や曇天が続くと拡大する。収量ギャップと相関の高い生育時期・気象要素は、「チホクコムギ」は成熟前15日間の降雨日の平均気温、「ホクシン」は開花6-10日後の大気飽差である(図2)。「チホクコムギ」は穂発芽、「ホクシン」は赤かび病が発生しやすい品種で、発病しやすい時期の降雨や曇天は最大可能収量から収量を低下させる。
  • 「きたほなみ」は、開花日を含む前後2日間の大気飽差が低いと収量が低下する(図2)。耐病性が強化されているが、受粉に関わる開花期の曇天や雨天は、最大可能収量から収量を低下させる要因として残っている。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は気象情報に基づく実収量の予測において活用が見込まれる。
  • 解析対象地域は、北海道東部のオホーツク地域・十勝地域である。実収量は農林水産省作物統計、気象要素は農研機構メッシュ気象データ(大野2016)より畑地目を抽出し、使用している。
  • 最大可能収量は、その気象条件下において可能な最大限の収量で、光合成に影響する気温、日射量など複数の気象データを入力して得られる。ここでは、ヨーロッパで開発された作物生育解析モデル「WOFOST」を用いて算出される。収量ギャップは(最大可能収量)-(実収量)で示され、値が小さいほど、実収量が気象条件で期待される収量を満たすことを意味する。
  • 大気飽差は湿潤程度の指標で、飽和水蒸気圧に対する実際の水蒸気圧で示される。曇天・降雨などにより湿潤な気象条件ほど、大気飽差はゼロに近づく。

具体的データ

図1 小麦の道東地域の実収量(色の付いたバー)と最大可能収量(透明のバー),図2 各年の収量ギャップと相関の高い特定の生育時期の気象要因

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費19KT0041、19H00963、20H03110)
  • 研究期間:2015~2021年度
  • 研究担当者:下田星児、寺沢洋平、西尾善太(東農大) 、濱嵜孝弘
  • 発表論文等:
    • Shimoda S. et al. (2022) Agric. For. Meteorol. 312:108710
    • Shimoda S. and Hamasaki T. (2021) Int. J. Biometeorol. 65:223-233