地上基準点を使用せずに鉛直誤差をcmレベルに低減させるUAV計測手法

要約

RTK搭載UAVの使用、カメラ角度-70度、RTK最適化データ処理により、地上基準点不使用でも、鉛直誤差の主要因の一つであるDomingをほぼ完全に低減(鉛直誤差1cm以内/水平100m)する手法である。本手法により、UAV計測の省力化および高精度化が実現される。

  • キーワード:無人航空機(UAV)、リアルタイムキネマティック(RTK)、ドーミング(Doming)、地上基準点(GCP)
  • 担当:北海道農業研究センター・寒地酪農研究領域・自給飼料生産グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農作物の生育状態を広域かつ正確に把握するツールとして、UAV(unmanned aerial vehicle、ドローン)を用いた調査手法の開発が進んでいる。しかし、空撮写真から3次元モデルを作成(UAV計測)する場合、Domingと呼ばれるモデル全体の上下の歪みが発生し、鉛直誤差増加の要因となっている。経験的に地上基準点(GCP: ground control point)を使用することで計測精度が向上するが、GCPの使用は労力が大きくUAV計測を社会実装する上での障壁である。そのため、GCPを使用せずにDomingを低減する、省力的かつ高精度なUAV計測手法の開発が求められている。そこで本研究では、RTK(real time kinematic)-GNSS(global navigation satellite system)を搭載したUAVの使用、カメラ角度、データ処理方法、およびGCPの配置と、Doming発生程度および鉛直誤差との関係を検討し、GCP不使用で鉛直誤差をcmレベルに低減するUAV計測手法を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 一般に実施されているGCPを圃場の四隅に配置する手法(表1、条件1)では、Domingは大きく発生し(Doming指数 0.522)、鉛直誤差も大きい(平均絶対鉛直誤差 約1.5m)。一方、圃場の中心部にもGCPを設置することができれば(表1、条件2)、Domingおよび鉛直誤差ともにほぼ0に低減される(条件1に比べて約99%減少)が(図1、2)、維持管理上現実的でない。
  • 近年普及が進みつつあるRTK搭載UAVを利用かつGCPを設置しない条件においては(表1、条件3)、RTK非搭載UAVと圃場四隅のGCPを用いた従来の手法に比べて、Domingはやや低減され(Doming指数は約20%減少)鉛直誤差は約半分(平均鉛直誤差は約48%減少)に低減される。
  • RTK搭載UAVを利用かつカメラ角度-70度撮影およびRTK最適化データ処理(写真測量ソフトウェア(Agisoft Metashape)上の処理における「XMPカメラ位置精度の利用on」および「カメラアライメントの追加補正on」の実施)を併用することで、Domingおよび鉛直誤差ともにほぼ0に低減される(条件1に比べて約99%減少、図1、2)。省力性および運用効率を考慮した場合、表1の条件4で示したRTK最適化法が最良の撮影・データ処理手法である。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で提案するRTK最適化法を用いることでUAV計測の大幅な省力化と高精度化が実現し、農業分野におけるUAV活用の促進が期待される。
  • 飛行方法はUAVの機首が常に進行方向に向くように、すなわち隣接コースでは互いに逆方向に傾くように設定する。具体的には、DJI GS RTKの飛行ルート作成時に二重格子でルートを作成し、飛行ルートが直交方向に変化するタイミングでフライトを中止する。
  • カメラ角度に関しては、鉛直方向からの傾け角度を大きくするほどDomingおよび鉛直誤差低減効果は大きいが(下記発表論文を参照)、以下の2つの理由により-70度が最良である。1) -70度においてDoming指数は0.01(鉛直誤差範囲1cm/水平100m)以下かつ平均絶対鉛直誤差は2cm以下に低減しており、真値とした地上測位(RTK-GNSS)手法の計測精度(2cm)に達している。2) 傾け角度が大きくなるほど、UAV飛行範囲、飛行時間、撮影枚数、データ処理時間が増大し、また写真の地上解像度が低下する。
  • 本成果は対地高度30m、計測範囲10ha(500m×200m)の計測条件において得られた結果であり、異なる条件下における適用性は今後のさらなる検討が必要である。
  • 写真測量ソフトウェアはAgisoft Metashape Professional ver.1.7.2を使用した。本手法の一部はMetashapeによるデータ処理が含まれており、今後同ソフトウェアの内部アルゴリズムの変更により、結果に影響が出る可能性がある。

具体的データ

表1 撮影およびデータ処理条件,図1 3次元モデルの鉛直誤差,図2 Doming指数と平均絶対鉛直誤差

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:小花和宏之、早川裕一(北大)、坂上清一
  • 発表論文等:小花和ら(2021)システム農学、37:29-38