北海道水稲糯品種間に見られる澱粉特性の違いに関わる遺伝領域
要約
北海道水稲糯品種「きたゆきもち」と「しろくまもち」間で異なる糊化特性および餅の硬化性に関わる遺伝領域が第2染色体上に検出される。領域内の澱粉枝付け酵素SbeIIbのコード領域上に存在するSNPを基にしたDNAマーカーを用いることで、簡便な遺伝子型判別が可能となる。
- キーワード:餅硬化性、粘度上昇開始温度、QTL解析、DNAマーカー
- 担当:北海道農業研究センター・寒地野菜水田作研究領域・野菜水田複合経営グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
澱粉特性は水稲品種の穀粒品質や食味特性の主要な決定要因である。澱粉特性を制御することが可能になれば、より有望な特性を備えた水稲品種の開発につながる。北海道で育成された2つの水稲糯品種「きたゆきもち」と「しろくまもち」は異なる糊化特性および餅の硬化性を示す。「きたゆきもち」は「しろくまもち」よりも粘度上昇開始温度が低く、餅が硬くなりにくいが、その要因については明らかでない。
そこで、本研究では両品種間の組み換え自殖系統集団を用いたQTL解析と詳細マッピングにより、糊化特性と餅の硬化性を制御する遺伝領域を明らかにし、両品種の澱粉特性の違いを判別可能なDNAマーカーを開発する。
成果の内容・特徴
- ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いて測定した米粉の粘度上昇開始温度、及びペースト状の餅にして4°C
で24時間静置した後の餅の硬さの2つの表現型は、両品種間の組換え自殖系統96系統で分離する。QTL解析および詳細マッピングにより原因遺伝子座乗候補領域は第2染色体上305 kbpに絞り込まれる(図1)。
- 塩基配列解析によって、原因遺伝子座乗候補領域内の候補遺伝子として澱粉枝付け酵素Starch branching enzyme IIb (SbeIIb)が同定される。SbeIIbの「しろくまもち」遺伝子型のコード領域に「日本晴」や「きたゆきもち」に対して非同義置換となる一塩基多型(SNP)が存在する(図2)。
- SbeIIbコード領域上に検出されたSNPの情報を基に遺伝子型判別CAPSマーカーが設計できる(表1)。PCR増幅産物は225bpで、「しろくまもち」遺伝子型では制限酵素BspT107I (HgiC I)での処理により切断され、145bpと80bpの断片となる。これにより、糊化特性および餅の硬化性に関わる遺伝領域の簡便な遺伝子型判別が可能となる。
- 「きたゆきもち」および「しろくまもち」の育成系譜上品種のSbeIIb 遺伝子型判別から、「しろくまもち」遺伝子型の起源をアメリカの品種「Cody」に特定できる。「Cody」由来の「しろくまもち」遺伝子型は北海道品種「キタアケ」を経由して、北海道の水稲育種集団に導入されている(図3)。
成果の活用面・留意点
- SbeIIb 遺伝子型判別CAPSマーカーは共優性のため、遺伝子型が分離している初期世代集団での選抜にも活用可能である。
- 水稲の澱粉特性は、SbeIIbを含むこの遺伝領域の遺伝子型だけで決まるわけではなく、他の遺伝要因や環境の影響なども受けて変化する。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2017~2021年度
- 研究担当者:池ヶ谷智仁、芦田かなえ
- 発表論文等:
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池ヶ谷、特願(2020年6月5日)
- Ikegaya T. and Ashida K. (2021) Breed. Sci. 71:375-383