アナフィラキシーリスクマネジメントへの貢献が期待できるFag e 2欠失型ソバ系統

要約

突然変異誘発により作出されたFag e 2アレルゲンタンパク質が欠失したソバ系統は、アナフィラキシーリスクの低減およびリスクマネジメントへの貢献が期待できる。

  • キーワード : ソバ、ソバアレルギー、Fag e 2、化学的突然変異誘発、アレルゲン欠失型
  • 担当 : 北海道農業研究センター・寒地畑作研究領域・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ソバは和食文化を象徴する食品で、必須アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類等の栄養バランスの良い完全食として認知され、近年はジャパニーズスーパーフードとしても取り挙げられるなど、食品としての利用価値が高い。一方で、ソバは時にアナフィラキシーという深刻な健康被害を引き起こすことでも知られる。本研究では、EMS(Ethyl methanesulfonate、エチルメタンスルホン酸)を変異原とする突然変異誘発により、複数存在するソバアレルゲンのうち、アナフィラキシーとの関連性が高いと考えられているFag e 2アレルゲンタンパク質が欠失型となる系統を開発する。

成果の内容・特徴

  • Fag e 2欠失型系統はソバ品種「春のいぶき」の種子にEMSを用いた突然変異誘発により、Fag e 2遺伝子の244~246塩基部位において、TCG(セリン)がTAG(終止コドン)に変異した対立遺伝子をホモ型に持つ系統である(図1)。
  • ソバは自家不和合性であるが、中間母本「そば中間母本農1号」などの自家和合性個体と交配することで、Fag e 2欠失型形質を有する自家和合性系統としても維持できる。
  • KASPマーカーを利用することにより、変異型対立遺伝子のホモ・ヘテロ型が簡易に識別できる(図2)。
  • Fag e 2欠失型系統は、Fag e 2特異的抗体を用いたウェスタンブロット法により、Fag e 2が未検出となることが確認される(図3)。
  • Fag e 2欠失型系統では、Fag e 2遺伝子のmRNAの発現量が少ないことが遺伝子発現解析により明らかとなり、これによりFag e 2の欠失型が生じていることが示唆される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果を活用することで、Fag e 2欠失型特性をソバに付与することが可能となる。
  • 野生型と交雑することで、Fag e 2欠失型特性は容易に失われるため、増殖や栽培時での隔離を必要とする。
  • 本成果は複数存在するソバアレルゲンタンパク質のうちのFag e 2に関するものであり、全てのソバアレルギーが低減されるわけではないため、成果の活用の際には留意が必要である。

具体的データ

図1 EMS処理によりFag e 2遺伝子の塩基配列内で確認された終止コドン変異,図2 KASPマーカーによる終止コドン変異型の簡易識別,図3 ウェスタンブロット法により確認されたFag e 2欠失型,図4 野生型、欠失型系統の成熟中種子におけるFag e 2 遺伝子mRNAの発現量比較

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間 : 2019~2021年度
  • 研究担当者 : 原尚資、佐藤里絵、岡本薫(藤田医科大)、圓山恭之進(国際農研)、松井勝弘、鈴木達郎、石黒浩二、大塚しおり、大澤良(筑波大)、陳蕤坤(筑波大)、手島玲子(岡山理科大)、近藤康人(藤田医科大)、安井康夫(京都大)
  • 発表論文等 :