直近10日分の日乳量から翌日以降の日乳量を予測する機械学習モデル

要約

直近10日分の日乳量から翌日以降の日乳量を予測するモデルを機械学習により構築する。この予測モデルは、予測開始から30日間の予測誤差が搾乳期間を通じて小さく、短期的な日乳量の予測精度が高い。

  • キーワード : 日乳量、機械学習、予測誤差、乳用牛
  • 担当 : 北海道農業研究センター・寒地酪農研究領域・乳牛飼養グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

乳用牛における毎日の乳生産量(日乳量)は分娩後1~2か月でピークに達し、その後緩やかに減少するため、酪農家は乳用牛を搾乳期間中に受胎させ、適切な間隔で分娩を繰り返させることにより乳生産量を高く維持させる。適切な分娩間隔は日乳量の減少量によって異なり、減少量の少ない個体は受胎時期を遅くし、比較的長めの分娩間隔で生産性が高くなる。そのため、乳生産がピークに達する分娩後2か月以降のなるべく早期にその後の日乳量の変化を長期的に予測できれば、その個体の生産性を最大にする受胎時期を判断できる。また、日乳量の大きな減少は体調の悪化を示すことから、疾病発生等、個体の異常の検知として利用されている。当日の日乳量の期待値を高精度で予測できれば、期待値からの減少量に基づいて個体の異常を検知する精度を高めることが可能となる。日乳量の推移は、個体の能力、分娩時の産次や季節、毎年の飼料の品質や飼養条件の影響を受ける。これら経時的に変化する日乳量の予測に対して、予測モデルの構築を自動化できる機械学習手法の適用は有用と考えられる。
そこで、本研究では酪農家における毎日の日乳量記録を用いた機械学習手法による日乳量予測モデルを構築し、分娩後60日時点に分娩後61日から305日を予測する長期的な予測精度、および分娩後60日以降の毎日の予測における予測開始日から30日間の短期的な予測精度を検証する。

成果の内容・特徴

  • 直近10日分の日乳量から翌日の日乳量を予測するモデルについて、牛群ごとの過去の日乳量データを学習データとし、ランダムフォレスト法で機械学習することにより構築する(図1)。実際の予測において、予測開始日の翌日以降の予測値を翌々日以降の予測に順次利用することにより、長期的な予測を行う。予測は毎日実施し、予測に用いる日乳量および日乳量予測値は毎日更新される。予測モデルを北海道十勝地域のフリーストール飼養およびミルキングパーラー搾乳で管理されているA牛群489頭およびB牛群664頭のデータ(表1)でそれぞれ構築し、予測精度を検証する。
  • 分娩後60日時点の予測による分娩後61日から305日までの予測誤差の平均値は、A牛群で3.58kg(平均日乳量の10.2%)、B牛群で4.29kg(同11.3%)である。予測誤差は産次が進むに伴い大きくなり、また、予測日が予測開始日から離れるほど大きくなるが、その変化は牛群により異なる(図2)。
  • 分娩後61日から305日における予測開始日から30日間の予測誤差の平均値は、A牛群で2.26kg(平均日乳量の6.4%)、B牛群で2.61kg(同6.8%)と小さく、搾乳期間を通じて一貫している(図3)。本成果で開発した予測モデルは、短期的な日乳量の予測精度が高い。

成果の活用面・留意点

  • 毎日の日乳量記録および機械学習に基づく日乳量予測モデルの予測誤差に関する基礎情報として利用可能である。
  • 酪農家の飼養条件や牛群の乳生産能力は経時的に変化するため、学習データおよび予測モデルは定期的に更新する必要がある。

具体的データ

図1 機械学習手法を用いた日乳量予測モデルの構築と予測手法,表1 日乳量予測モデルの構築および誤差検証に用いた牛群の頭数および平均日乳量,図2 分娩後60日時点の予測による61日から305日までの30日毎の日乳量予測誤差(データを10分割した交叉検証による平均絶対誤差),図3 予測開始から30日間の日乳量予測誤差(データを10分割した交叉検証による平均絶対誤差)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(AIプロジェクト)、農林水産省(スマート農業実証プロジェクト)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 山崎武志、伊藤優介(富士通株式会社)、田鎖直澄、太田雄大(十勝農業協同組合連合会)、大井裕樹(十勝農業協同組合連合会)、山口諭(北海道酪農検定検査協会)
  • 発表論文等 : 伊藤ら (2022) 日畜会報、93:347-355