北海道向け多収水稲品種「きたげんき」の収量ポテンシャル及び多収栽培技術

要約

「きたげんき」の収量ポテンシャルは、登熟期日射量が多い気象条件下において粗玄米収量1.21t/10aである。基肥多肥に穂揃期追肥や疎植を組み合わせることで「きたげんき」の省力多収栽培が可能となる。

  • キーワード : 収量ポテンシャル、多収、窒素施肥、栽植密度、飼料用米
  • 担当 : 北海道農業研究センター・寒地野菜水田作研究領域・野菜水田複合経営グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

北海道向け多収品種「きたげんき」(2016年育成)は、主に飼料用米として栽培されており、既存の多収品種「きたあおば」や「たちじょうぶ」よりも多収であることが報告されているが、その収量ポテンシャルや多収栽培技術については明らかにされていない。そこで、本研究では、「きたげんき」の収量ポテンシャルを明らかにするとともに、省力的に多収を得るための栽培技術を提案する。

成果の内容・特徴

  • 施肥試験及び施肥・栽植密度試験において、「きたげんき」の各年次における最多収量は、粗玄米収量929~1211kg/10aである(図1a)。最多収量が得られた2017年は、他の年次と比べて登熟期(穂揃期~成熟期)の積算日射量が多い(図1b)。
  • 基肥多肥+穂揃期追肥、幼形期追肥+穂揃期追肥により、粗玄米収量1t/10a以上の多収が得られる(表1)。その要因として、基肥多肥や幼形期追肥では、標肥と比べて穂数が増えることで総籾数及びシンク容量(総籾数×千粒重/1000)が増加することが挙げられる。一方、穂揃期追肥では、穂揃期無追肥と比べて登熟期乾物生産が増加し、登熟歩合が高まることで多収となる。多収(粗玄米収量>1t/10a)となる施肥体系のうち、基肥多肥+穂揃期追肥は、幼形期追肥+穂揃期追肥よりも追肥の回数が少なく省力的である。
  • 基肥多肥では標肥と比べて増収するものの(図2a)、基肥多肥+標植では倒伏の危険性が高まる(図2b)。一方、基肥多肥に疎植を組み合わせることで倒伏が軽減され(図2b)、基肥多肥+標植と同等の収量が得られる(図2a)。また、疎植による省力効果も期待できる。
  • 以上の結果から、「きたげんき」の収量ポテンシャルは、登熟期日射量が多い気象条件下において粗玄米収量1.21t/10aである。「きたげんき」を省力的に多収栽培するためには、基肥多肥に穂揃期追肥や疎植を組み合わせることが有効である。

成果の活用面・留意点

  • 「きたげんき」を省力的に多収栽培するための基礎的な知見となる。
  • 本試験は、北海道農業研究センター(札幌市)内の水田で行った施肥試験及び施肥・栽植密度試験(いずれも移植栽培)の結果である。施肥試験は、前期窒素施肥3水準(標肥[基肥10.5kgN/10a]、基肥多肥[基肥16.5kgN/10a]、幼形期追肥[基肥10.5kgN/10a+幼形期追肥6kgN/10a])と後期窒素施肥2水準(穂揃期無追肥、穂揃期追肥[穂揃期追肥6kgN/10a])を組み合わせた6水準で2年間(2015~2016年)行い、施肥・栽植密度試験は、前期窒素施肥2水準(標肥[基肥10.5kgN/10a]、基肥多肥[基肥16.5kgN/10a])と栽植密度2水準(標植[22.8~23.0株/m2]、疎植[11.4~11.5株/m2])を組み合わせた4水準で3年間(2016~2018年)実施している。
  • 本試験(4年間の多収栽培試験)で得られた最多収量を収量ポテンシャルとした。
  • 「きたげんき」は、現在、北海道で発生しているいもち病の主要なレースに対して抵抗性を示すが、圃場抵抗性が十分ではないと考えられるので、侵害菌の発生に注意し、適正な防除に努める。

具体的データ

図1 「きたげんき」の各年次における最多収量(a)及び積算日射量(b)(Yagioka et al.2022より改変),表1 施肥試験における前期窒素施肥及び後期窒素施肥が「きたげんき」の生育及び収量に及ぼす影響(Yagioka et al.2022より改変) ,図2 施肥・栽植密度試験における前期窒素施肥及び栽植密度が「きたげんき」の収量(a)及び倒伏程度(b)に及ぼす影響(Yagioka et al.2022より改変)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(収益力向上)、農林水産省(先導プロジェクト)
  • 研究期間 : 2015~2018年度
  • 研究担当者 : 八木岡敦、林怜史、君和田健二、近藤始彦(名古屋大)
  • 発表論文等 : Yagioka A. et al. (2022) European Journal of Agronomy. 140:126606
    doi:10.1016/j.eja.2022.126606