放牧および追播に適した北海道向けフェストロリウム品種「ノースフェスト」

要約

フェストロリウム「ノースフェスト」は多回刈で多収、季節生産性が平準であるなど放牧に適し、飼料品質も優れる。道東での越冬性はペレニアルライグラスより優れる。既存草地への追播により植生が回復し、栄養収量が増加する。

  • キーワード : フェストロリウム、越冬性、放牧適性、飼料品質、追播
  • 担当 : 北海道農業研究センター・寒地酪農研究領域・自給飼料生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

ペレニアルライグラスは飼料品質や放牧適性に優れ追播でも利用されるが、越冬性が劣るため北海道東部(道東)における利用は推奨されていない。道東においては、越冬性に優れるメドウフェスクが放牧利用されているが、出穂茎の多い時期に家畜の嗜好性が低下する。そこでペレニアルライグラスの放牧適性とメドウフェスクの越冬性を併せ持つフェストロリウム(属間雑種)を作出して、道東まで適応可能な越冬性と優れた放牧適性や飼料品質を有し追播でも利用できる品種を育成し、北海道における放牧酪農の普及推進および自給飼料の高品質化を図る。

成果の内容・特徴

  • 越冬性は、根釧地域以外ではメドウフェスク「ハルサカエ」より優れるが、根釧地域では「ハルサカエ」より劣る(表1)。全道においてペレニアルライグラス「ポコロ」より優れる(表1)。
  • 放牧利用を想定した多回刈における2か年合計乾物収量は「ハルサカエ」「ポコロ」より多い(表2)。季節別では「ハルサカエ」と比較し季節間の変動が小さい(表2)。春季の出穂程度は「ハルサカエ」より低い(表1)。推定TDN含量は「ハルサカエ」「ポコロ」と同程度である。総繊維に占める高消化性繊維割合(Oa/OCW)は「ハルサカエ」より高く飼料品質に優れる(表1)。採草・放牧兼用利用では「ハルサカエ」「ポコロ」より多収である(表2)。以上のことから、放牧に適する。
  • 定着時草勢は「ハルサカエ」「ポコロ」より優れ、初期生育は良好である(表1)。採草利用における出穂始日は「ハルサカエ」より2日遅く「ポコロ」より3日早く、乾物収量は「ハルサカエ」より少ない(表1、2)。
  • 牧草被度が約20%に低下した既存チモシー採草地へ「ノースフェスト」を追播した場合、定着は良好で、追播後2年目以降牧草被度(チモシー+フェストロリム)が60~90%に回復する(図1)。生育が旺盛であり、3年目には「ノースフェスト」が優占傾向となる(図1、表3)。
  • 「ノースフェスト」追播草地では、追播なしの草地(無追播・無防除)に比べて、乾物収量が増加し、TDN収量(栄養収量)が雪腐病無防除区で16%、雪腐病防除区で19%増加する(表3)。越冬性が良好であるため、無防除でも植生と生産性が回復する。無防除におけるTDN収量の無追播区比は、ペレニアルライグラスとメドウフェスクともに107%で、これらに比べて「ノースフェスト」の増収効果は大きい(表3)

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 酪農家、繁殖および肥育農家、TMRセンター等外部支援組織。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 北海道の3,000ha。
  • その他 :放牧利用を主体として、採草および採草・放牧兼用にも利用できる。根釧地域の一部のような著しい凍害や冠氷害(アイスシート害)が懸念される地域あるいは圃場での利用は避ける。種子は、雪印種苗(株)より2024年4月頃から販売される。地域適応性検定試験と実証試験の試験成績からSOP標準作業手順書0.8を作成する。

具体的データ

表1  フェストロリウム「ノースフェスト」の主要特性,表2 フェストロリウム「ノースフェスト」の収量性,図1 フェストロリウム「ノースフェスト」追播における植生の推移,表3 フェストロリウム「ノースフェスト」追播における年間合計乾物収量とTDN収量および被度

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、革新的技術開発・緊急展開事業:経営体プロジェクト)
  • 研究期間 : 2006~2020年度
  • 研究担当者 : 田村健一、田瀬和浩、眞田康治、小松敏憲、秋山征夫、谷津英樹(雪印種苗)、横山寛(雪印種苗)、高山光男(雪印種苗)、林拓(道総研)、牧野司(道総研)、出口健三郎(道総研)、佐藤尚親(道総研)
  • 発表論文等 :