要約
ジャガイモシロシストセンチュウ捕獲作物のトマト近縁種「ポテモン」を秋まき小麦収穫後の8月中旬に播種して60日間を目標に栽培することで本線虫密度を平均約70%低減させることができる。これにより輪作体系を維持した効率的な防除が可能になる。
- キーワード : Solanum peruvianum、Globodera pallida、緊急防除、輪作体系
- 担当 : 北海道農業研究センター・研究推進部・技術適用研究チーム
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
北海道オホーツク地域で発生したバレイショの侵入害虫ジャガイモシロシストセンチュウGlobodera pallida(以下、Gp)の防除対策として、これまでに捕獲作物(Gp卵のふ化を促進する効果を有する抵抗性植物)のトマト近縁種Solanum peruvianum「ポテモン」(雪印種苗)を利用した防除技術を開発し、緊急防除で活用されている。しかし、ポテモンを栽培するには収益作物を1年休作する必要があり、農業生産に及ぼす影響が大きいことから、収益作物の生産を維持できる捕獲作物の利用法の開発が求められている。そこで、輪作作物の小麦を収穫した後の休作期間中(8月中旬~10月)にポテモンを栽培(小麦後作)することによりGpの密度低減を図れる技術を開発する。
成果の内容・特徴
- ポテモンの小麦後作栽培は、緊急防除慣行の6月播種栽培と同じ栽培方法で、8月中旬から60日間栽培する方法である。播種量350 g/10 aで播種した場合、出芽は概ね良好で、株数は6月播種と同等以上得られる(表1)。一方、期間中のポテモン生育に必要な有効積算温度(平均277°C日)が6月播種(播種後60日間の平均397°C日)に比べて低いことや、早霜による栽培期間の短縮等の影響により、草高は6月播種栽培に比べて著しく劣る(表1)。
- しかし、栽培後の土壌中Gp密度は播種前の平均28.2%へ減少し、無播種区での平均残存率82.1%よりも有意に低下する(表2)。早霜による栽培期間の短縮等によりGp密度低減効果がやや低くなる場合があるものの(表2-2021年)、ポテモンの小麦後作はGp密度低減に有効である。
- これにより収益作物の輪作を維持しながらポテモン栽培によるGp防除を図れるようになり、より効率的な防除が可能になる(図1)。また、ポテモンの導入機会が増えることでより早期の防除完了が期待できる。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 北海道で実施中のGp緊急防除事業(行政機関、普及指導機関、バレイショ生産者)。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 北海道オホーツク地域約200 ha。
- その他 : SOP「ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除対策技術(SOP22-211a)」に追加改訂し、Gp緊急防除での活用を図る。なお、2022年度の北海道農業試験会議において指導参考成果として採択され、すでに北海道と対象地域の農協には普及済みである。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業、戦略的スマート農業技術等の開発・改良)
- 研究期間 : 2020~2022年度
- 研究担当者 : 伊藤賢治、坂田至、串田篤彦、小野寺鶴将(道総研北見農試)
- 発表論文等 : 伊藤ら(2023)日線虫誌、53:11-14