ジャガイモシストセンチュウ類の省力的な密度推定法

要約

土壌から分離したシストと、同時に分離される夾雑物を分けずにDNAを抽出し、リアルタイムPCRによって得たCt値から標準検量線を用いてジャガイモシストセンチュウ類の密度を推定する方法である。夾雑物ごとDNAを抽出することで省力的に密度推定が可能である。

  • キーワード : ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウ、バレイショ、リアルタイムPCR、密度推定
  • 担当 : 北海道農業研究センター・研究推進部・技術適用研究チーム
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

ジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida、以下Gp)およびジャガイモシストセンチュウ(G. rostochiensis、以下Gr)の土壌中密度(シスト内卵の密度)をリアルタイムPCRにより調査するには、乾燥土壌(通常100g以上)から常法(ふるい分けシスト流し法)によりシストを分離したあと、同時に分離される夾雑物からシストだけを拾い出してDNAを抽出する必要があり、この拾い出し操作に多大な手間を要することが実用上の壁になっている。そこで、シストと夾雑物を分けずにDNAを抽出する既報技術(Kushida and Sakai (2022) J. Gen. Plant Pathol. 88:251-258)を活用し、この手法により抽出したDNAを用いてリアルタイムPCRによる密度推定を行うための標準検量線を策定し、発生圃場の土壌を用いて検証することにより、省力的に実施可能なGpおよびGrの密度推定法を作成する。

成果の内容・特徴

  • 乾燥土壌100gから常法により分離したシストと夾雑物を乾燥させてプラスチックチューブに流し込み、ビーズ式破砕機で破砕後、市販の抽出キットを用いてDNAを抽出し、既報のGp・Gr特異的プライマー・プローブ(Nakhla et al. (2010) Plant Dis. 94:959-965)を用いてリアルタイムPCRを行う(図1)。従来、線虫のDNAを調製するには土壌から分離したシストを夾雑物から拾い出す必要があり、この操作に多大な労力と時間(30~60分/サンプル)を要していたが、本法はシストと夾雑物を分けずにDNAを抽出できるため、シストをプラスチックチューブに詰める作業にかかる時間を1サンプルあたり1~2分まで短縮できる(図1)。
  • 1~1000個のGp卵またはGr卵に様々な量(4段階)または圃場由来(4圃場)の夾雑物を添加したモデル実験の結果、GpおよびGrのCt値は夾雑物の量や由来圃場が異なってもほとんど変わらない(データ略)。よって、得られた全Ct値データを元に検量線を作成し、GpおよびGrに対する標準検量線(Gp:y=-3.2457x+32.823、Gr:y=-3.7801x+33.336、y:Ct値、x:卵数の常用対数値)とする(図2)。
  • 標準検量線を用いて、複数の発生圃場の土壌におけるGpおよびGrの密度を推定すると、実際の密度(現行の顕微鏡観察によって調査)と有意に相関する(図3)。これにより、リアルタイムPCRによるジャガイモシストセンチュウ類の密度推定が省力的に実施可能になる。
  • 本法は乾燥土壌100g相当の夾雑物(0.1~0.6ml)に添加したGp卵またはGr卵 1個を検出できることから、高感度なGpおよびGr検出手法としても利用可能である。なお、検査土壌中にGpまたはGrがいない場合は、そのDNAは増幅しないため、Ct値は得られない。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 民間検査機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 北海道内の民間検査機関数社。
  • その他 : JAきたみらいでは本手法を一部適用してGpおよびGrの検出診断を実施している。標準作業手順書を作成・公開予定である。

具体的データ

図1 本法の流れとDNA抽出工程における従来法との比較,図2 モデル実験の結果から導いた標準検量線,図3 標準検量線を用いてリアルタイムPCRで推定した密度(推定した密度)と、現行の顕微鏡観察により調査した密度(実際の密度)の関係

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的スマート農業技術等の開発・改良)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 坂田至、伊藤賢治、串田篤彦
  • 発表論文等 : Sakata I. et al. (2024) Appl. Entomol. Zool. 59:145-153