バレイショ収穫計画を支援するための時別地温予測モデル

要約

バレイショ塊茎の打撲黒変発生リスクが高い低地温条件下での収穫を防ぐため、農研機構メッシュ農業気象データの予報値から収穫期の毎時の圃場地温を9日先まで深さ別(5、10、15cm)に予測する数値モデルである。3日後の深さ10cmの日最低地温は誤差1.2°C程度で予測できる。

  • キーワード : 加工用バレイショ、低地温、打撲、メッシュ気象情報
  • 担当 : 北海道農業研究センター・研究推進部・技術適用研究チーム
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

バレイショ塊茎は収穫時や輸送中などに一定以上の打撲を受けると貯蔵中に皮下の色素に酵素反応が生じて黒変する。健康被害を引き起こすものではないが、特にポテトチップ等の材料となる加工用バレイショでは黒変が忌避されるため、製品歩留まりの低下やフードロスの一因となる。黒変の発生率は品種や圃場条件、栽培条件などで変わるが、塊茎の温度が低下するにつれて打撲感受性が上がることが知られており、北海道内生産者向けの各種指導情報には地温が10°C以下での収穫を避けるよう記載されている。しかし生産者が実際に温度計で地温を確認するのは煩雑なうえ、当日に測定した地温によってその日の作業計画を変更するのは現実的ではない。そこで、数日先までの予報値を持つ農研機構メッシュ農業気象データを用いて収穫期の時別地温を予測し、生産者が作業計画を立てる際の参考情報として利用できる予測モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本モデルは、裸地における日平均地温を推定するForce-Restoreモデル(広田ら、1993)に群落による日射遮蔽効果と畦立てによる熱交換量の変化を組み込んでバレイショ畦に適用させ、得られた畦内の日平均地温に別途計算した日変動成分を重ねて、時別地温を推定する(図1)。地温の日変動成分は、日最高・日最低気温または時別気温から回帰式で求める(図2)。さらに下方向への温度伝播の遅れ時間を考慮したsin近似式で深さ別の時別地温を表現する。
  • 計算に必要な気象要素は気温・湿度・風速・日射量・長波放射量・降水量・消雪日で、使用者は計算する地点の緯度経度と茎葉除去処理を行った日付(群落が消滅した日付)を入力する。実行プログラムは指定された地点の気象要素を農研機構メッシュ農業気象データシステムから取得して、9日先までの5cm、10cm、15cmの予測地温を計算する。
  • 日最低地温の予測誤差(RMSE)は、深さ10cmの場合、7日前で約1.8°C、3日前で約1.5°C、1日前で約1.4°Cである(図3)。深さ5cmではそれぞれ約2.5°C、約2.1°C、約2.0°Cである。
  • 本モデルで地温が10°Cを上回る時間帯を確認することにより、打撲リスクの少ない作業開始・終了時間の目安が得られる。

成果の活用面・留意点

  • 本モデルは十勝農業協同組合連合会の組合員向け情報システム(TAFシステム)に導入され、2023年収穫期より試行が始まっている。
  • 計算に用いる土壌の熱伝導率などの内部パラメタは十勝地方の火山性土壌で得たものなので、土性が異なる地域への導入に際しては、実測値による修正が必要となる場合がある。
  • 実行プログラムはプログラミング言語「python」で記述しており、試用希望者には配布が可能である。実行に際しては、pythonの実行環境と農研機構メッシュ農業気象データシステムへの登録が必要となる。

具体的データ

図1 時別地温の計算方法,図2 地温の日変動成分(日較差)の推定方法,図3 日最低地温予測値のリードタイム毎の予測誤差(RMSE)。

その他

  • 予算区分 : 交付金、SIP
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 小南靖弘、吉田光希
  • 発表論文等 : 小南靖弘, 吉田光希 (2024) バレイショ収穫計画を支援するための時別地温予測モデル. 北農, 91(1), 35-41.