要約
積雪期間の気温が0°Cを越える地域は、気温だけでなく地温を考慮すると大麦の出穂期の年次変動を評価できる。現在の気候において、1-2月の平均気温が0°C以上の北陸は、多雪年に地温が低く保たれて生育が遅れる一方、同時期の気温が0°Cを下回る東北は、3-4月の気温上昇で出穂期が早まっている。
- キーワード : 大麦、気候変動、積雪
- 担当 : 北海道農業研究センター・寒地畑作研究領域・スマート畑作グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年の温暖化により、多くの作物の生育が早まっている。温暖化に伴う生育の早まりは、施肥や農薬散布の時期を変化させ、生産者の栽培管理スケジュールに影響を与える。生育が早まる傾向が普遍的であれば、品種や輪作体系を再考する必要があるため、気候変動に伴う生育変化を明らかにする必要がある。これまで、大麦の生育は、気温や日照時間等に基づいたモデル式により推定されている。積雪地帯における大麦の生育の早晩は地域により異なるが、変動要因は明確ではない。本研究では、近年の気候変動に伴う生育の早期化程度を明らかにするため、気温だけでなく、成長点位置の地温の長期気候変動影響を示すことで、生育の早晩の原因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 3調査地点の2か月平均気温は、3月から4月に上昇するのは共通(図1)だが、同じ大麦品種でも、東北と北陸の出穂期の変動傾向は異なる。「ミノリムギ」の場合、東北では3月から4月の気温上昇により、出穂が10年当たり4.9日早まる(図2中段)。一方、北陸では、3月から4月の昇温より、年次差の大きい1月から2月の地温の影響を受け、出穂期は、積雪期間が短い年に早まる(図2下段)。
- 越冬中の成長点の位置を深さ2cmと仮定し、積雪影響を考慮して地温を推定した(図3)。東北は1月から2月の平均気温は0°C以下で、この時期の気象条件は生育の早晩に影響しないが、平均気温が0°Cを越える北陸は、少雪年に地温が高まり生育が早まる。多雪年は、外気温が0°C以上でも積雪の断熱効果によって地温は低温に保たれるため、生育が遅れる。
- 一般的な発育速度予測式を用いて推定した出穂期の推定誤差は、気温を入力値とした場合は7.7日であったが、地温を入力値とした場合は4.0日になる(図4)。通常、生育の早晩を評価するための温度データとしては、入手の容易な気温が用いられるが、積雪地域の大麦は、地温の実測値または推定値を利用すると精度が高まる。
成果の活用面・留意点
- 積雪期間の平均気温が0°C以上の地域の大麦の生育予測に用いると推定精度が高まる。今後、国内の積雪地域の気温上昇が予想されており、東北・北海道でも地温を用いた評価の重要性は高い。
- 北海道(芽室町)、東北(盛岡市)、北陸(上越市)の各研究拠点の気象観測露場の長期データを基に行った解析結果である。
- 越冬中の成長点の位置の深さ2cmの地温は、長期データで得られる各拠点の気温・積雪深・深さ10cmの地温を用いて推定し、3調査地点の深さ2cmの地温の推定誤差は1.1~1.3°Cである。推定には、積雪と土壌の熱伝導を反映したモデルを用いる。
- 東北では、大麦と同様に小麦品種「ゆきちから」でも出穂期の早まりを確認している。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2018~2024年度
- 研究担当者 : 下田星児、島崎由美、池永幸子、川北哲史、中嶋美幸、関昌子
- 発表論文等 : Shimoda S. et al. (2024) Sci. Total Environ. 312:108710