乳中脂肪酸組成は遺伝的に繁殖能力の高い乳牛を選抜する指標として有用である

要約

乳用牛群検定で毎月測定される乳中成分における、乳牛の栄養状態と関係する脂肪酸組成のうち、初産分娩後35日以内のデノボ脂肪酸割合とその後の初回授精受胎率との間に中程度の遺伝的関係があるため、この値に基づく乳牛の選抜は、繁殖能力が高い乳牛への遺伝的改良に有効である。

  • キーワード : 乳中脂肪酸組成、繁殖能力、牛群検定、初産牛、乳用牛
  • 担当 : 北海道農業研究センター・寒地酪農研究領域・乳牛飼養グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

乳牛は、生後約25ヵ月で初産分娩し、乳生産を開始する。毎日の乳生産量は分娩後1~2ヵ月でピークに達した後、緩やかに減少するため、適切な間隔で次の分娩に至り、新たに乳生産を開始させる必要がある。次の分娩のための人工授精で確実に受胎できる、繁殖能力の優れていることは、乳牛の資質として必須である。一方、分娩後1~2ヵ月の泌乳ピークへ達する時期は栄養状態が悪化しやすく、その程度が大きいとその後の授精により受胎する確率(受胎率)が低下することが指摘されている。そのため、乳生産性を維持しつつ、分娩後早期の栄養状態が悪化しにくい乳牛への遺伝的な改良が求められている。
近年、乳用牛群検定で毎月測定される乳中成分項目として、乳牛の栄養状態を簡易に把握する指標として注目されている脂肪酸組成が追加されている。乳中脂肪の成分である脂肪酸は、合成される原料によってプレフォーム脂肪酸、デノボ脂肪酸およびミックス脂肪酸に大別できる。栄養状態が悪化すると、主に飼料および体脂肪から合成されるプレフォーム脂肪酸割合が増え、ルーメン発酵由来の脂肪酸から合成されるデノボ脂肪酸割合が減ることが知られている。このことから、分娩後早期の乳中脂肪酸組成を指標として乳牛を選抜することにより、栄養状態が悪化しにくい、繁殖能力の高い乳牛へと遺伝的に改良できる可能性がある。そこで、本研究では、北海道の酪農家から収集した乳用牛群検定成績を解析し、分娩後早期の乳中脂肪酸組成とその後の繁殖成績との間の遺伝的関係を調査することにより、繁殖能力を遺伝的に改良するための選抜指標としての乳中脂肪酸組成の有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2019年4月から2021年4月までの間に北海道で分娩したホルスタイン種初産牛約3万頭の分娩後95日間における乳中脂肪酸組成は、分娩後日数の経過にともないプレフォーム脂肪酸割合が低下し、デノボ脂肪酸割合が増加する(図1)。この変化は、分娩後日数の経過にともなう栄養状態の回復(図2)と一致する。
  • 分娩後初回授精(分娩後約90日(国内平均))における受胎率は、分娩後35日以内のデノボ脂肪酸割合との間にのみ有意(P<0.1)な中程度の正の遺伝的関係(遺伝相関)があるため、分娩後35日以内のデノボ脂肪酸割合が高い乳牛の系統は、受胎率が高い傾向にある(図3)。
  • 分娩後35日以内のデノボ脂肪酸割合に対する遺伝的能力の寄与を示す遺伝率は14%であり、受胎率の遺伝率(2%)よりも高い(図4)。このことから、分娩後35日以内のデノボ脂肪酸割合に基づく乳牛の選抜は、繁殖能力が高い乳牛への遺伝的改良に有効である。

成果の活用面・留意点

  • 我が国の乳用牛における繁殖能力の遺伝的改良手法の検討、および酪農家が後継牛を作出させる雌牛を選定する際の参考情報として活用できる。
  • 本成果は、北海道の初産牛における乳用牛群検定記録およびそれらの血縁記録を用い、初回授精受胎率および分娩後35日以内、36-65日または66-95日に測定された乳中脂肪酸組成のいずれか1形質による2形質アニマルモデルにより推定した。
  • 乳中脂肪酸組成に基づく乳牛の選抜は、乳量など、その他の経済的に重要な能力の評価も参照して実施する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、民間資金等(日本中央競馬会畜産振興事業)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 山崎武志、西浦明子、千葉柚、中川智史(北海道酪農検定検査協会)、阿部隼人(北海道酪農検定検査協会)、中堀祐香(北海道酪農検定検査協会)、萩谷功一(帯広畜産大学)、大澤剛史(家畜改良センター)、増田豊(酪農学園大学)
  • 発表論文等 : Yamazaki T. et al. (2024) Anim. Sci. J. 95:e70003