熱処理鋳型調製法を用いたばれいしょの国内報告ウイルスの省力的検出法

要約

本法では、ばれいしょ粗汁液にウイルス検出用プライマーを混合して加熱処理することで鋳型を調製し、3通りのone-step multiplex RT-PCRにより、ばれいしょで国内報告のあるウイルス全12種を検出する。RNA抽出操作を省略できるため、省力的な検定が可能である。

  • キーワード : ばれいしょのウイルス、熱処理鋳型調製法、ダイレクトRT-PCR、種ばれいしょ、省力的検定法
  • 担当 : 北海道農業研究センター・寒地畑作研究領域・環境病害虫グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

種ばれいしょや植物体のウイルス検査では、抗血清を用いた酵素免疫測定法(ELISA)やRT-PCRによる遺伝子診断が行われている。これらのうち、RT-PCRはRNA抽出操作が必要であり、作業負担が大きいという問題がある。このため、ろ紙を用いた簡易RNA抽出法(Onozuka et al. (2020) J Gen Plant Pathol 86: 290-299)(以下「ろ紙法」)などを開発し省力化に取り組んできたが、検体数が多い場合には依然として作業は煩雑である。そこで、RNA抽出操作を行わずに植物組織の粗汁液を直接RT-PCRに供試するダイレクトRT-PCR法に着目し、従来法と同等以上の検出感度を有するばれいしょのウイルスのRT-PCR検定法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、RT-PCR鋳型の調製とone-step multiplex RT-PCRから構成される。RT-PCRでは、3種類のPrimer mix(A~C)(Suzuki and Ohki (2025)) により、ばれいしょの国内報告ウイルス全12種および内在性遺伝子(EF1α)をグループ別に同時検出する(図1)。Primer mix Aは、国内で特に対策が重要とされるジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV)、ジャガイモSウイルス(PVS)、ジャガイモXウイルス(PVX)、ジャガイモYウイルス(PVY)に加え、EF1αを対象とする。Primer mix Bは、アルファルファモザイクウイルス(AWV)、ジャガイモモップトップウイルス(PMTV)、ジャガイモAウイルス(PVA)、ジャガイモMウイルス(PVM)を対象とする。Primer mix Cは、キュウリモザイクウイルス(CMV)、ジャガイモ黄斑モザイクウイルス(PAMV)、トマト輪点ウイルス(ToRSV)、トマト黄化えそウイルス(TSWV)を対象とする。
  • 鋳型の調製は、RNA抽出操作を行わず、滅菌蒸留水で希釈したばれいしょ組織の粗汁液に標的ウイルスに対応したプライマーミックスを加えて混和し、PCRチューブ内で加熱処理を施すことで完了する(図1)。加熱処理の最適条件は標的ウイルスにより異なり、Primer mix Aでは70°C・5分、Primer mix Bでは80°C・5分、Primer mix Cでは98°C・5分である。調製した鋳型の入ったPCRチューブへ試薬(PrimeScript One Step RT-PCR Kit、タカラバイオ)を添加し、one-step multiplex RT-PCRを行い、電気泳動により各ウイルスを検出する(図1)。
  • 本技術の特徴は、粗汁液とプライマーの混合液を熱処理する点にあり、粗汁液を直接用いたり、粗汁液のみを熱処理してダイレクトRT-PCRを行うよりも高感度にウイルスを検出できる(図2)。また、従来法のELISAおよびろ紙法と比較しても、検出感度は同等以上である(図3)。
  • 鋳型の調製は、検出プライマー、サーマルサイクラーおよび関連消耗品類があれば実施可能である。以前に開発したろ紙法のRNA抽出操作と比較してピペット操作が少なく、作業者の実操作時間は約50%削減できる(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 農研機構種苗管理センター、植物防疫所、育種団体、十勝農協連、農研植物病院。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 種苗管理センター(検定数約8.7万塊茎分/年)。

具体的データ

図1 本技術による鋳型調製とone-step multiplex RT-PCRによるウイルス同時検出,図2 Primer mix Aを用いた粗汁液処理条件の違いによるダイレクトRT-PCR検出比較,図3 主要ウイルスにおける従来法との検出限界の比較,図4 鋳型調製に係る実作業時間の比較(96サンプル分)

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2025年度
  • 研究担当者 : 鈴木智、大木健広
  • 発表論文等 :