要約
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)を用いるポットで土中のMからLサイズのばれいしょ塊茎を非破壊的にモニタリングする。ポット内に配置された64個の電極間の960通りの複素インピーダンススペクトログラムを再構成し、土壌の重量含水率28~37%のとき塊茎を可視化できる。
- キーワード : 電気インピーダンストモグラフィ(EIT)、非破壊計測、塊茎発達、土壌水分、ばれいしょ塊茎の可視化
- 担当 : 北海道農業研究センター・寒地畑作研究領域・スマート畑作グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ばれいしょは、世界で第4位の重要な食用作物であり、食料安全保障の確保上極めて重要な役割を果たしている。しかし、現在の地下部バイオマスのモニタリングは、主に塊茎を掘り取り調査する従来型の手法に依存している。この方法は労力を要し、畦を破壊するため塊茎が着生する位置関係の把握が困難であり、土壌も大きくかく乱されるために継続的な塊茎の生長を計測することが難しい。そのため、塊茎の発達状況を土壌のかく乱無しに評価できる新たな技術が強く求められている。ところで、土壌と植物組織内の1-100kHzの電気インピーダンスは大きく異なることが知られており、植物組織内のインピーダンスが周波数の上昇とともに低下する一方で、土壌のインピーダンスは同範囲でほぼ一定である。これによって生じるインピーダンスの差をマップ化(電気インピーダンストモグラフィ : Electrical Impedance Tomography、以下EIT)すれば、土中にあるばれいしょ塊茎の位置と大きさを調査できる可能性がある。そこで本研究は、ワーヘニンゲン大学と共同開発したEITポットを用い、EITを用いたばれいしょ塊茎の可視化の可否、可視化できる塊茎サイズ、可視化に及ぼす土壌水分の条件を明らかにする。
成果の内容・特徴
- EITポットセンサーの概要
使用するポットは直径24cmおよび16cmの2種類である。ポットには64個(1周16個×4段)の電極が設置される(図1a)。データの取得および保存は、Digilent WaveFormsソフトウェア環境で開発した専用プログラムによって行う。1回の測定サイクルは以下のとおりである。まず、1~100kHzの範囲で設定した7つ(1、2、5、10、22、46、100kHz)の周波数の交流電流を流し、電極間のインピーダンスを計測する。各周波数についてワーヘニンゲン大学で考案された960組みのインピーダンスが計測される(図1b)。その結果960個の複素インピーダンススペクトログラムを得る。
- ばれいしょ塊茎を可視化するメカニズム
得られたインピーダンススペクトログラムは、オープンソースのEIT再構成ツールボックスEIDORSを用いて三次元再構成を行う。ばれいしょ塊茎が電極間に多くある場合は周波数の上昇とともにインピーダンスが低下し、土壌が多くあればインピーダンスはおおむね一定であるという特性を利用し、ばれいしょ塊茎の位置とその大きさを可視化する、三次元ポリゴンモデルが構成される(図1c)。
- 土壌水分が可視化に及ぼす影響
可視化の性能は土壌水分により変化する。土壌の重量含水率が25%未満での塊茎の可視化は、いずれの塊茎サイズでも不安定である(図2)。一方、重量含水率が28%を超えるとM~Lサイズの塊茎が可視化され(図3)、37%において最も明瞭な可視化画像が得られる(図4)。
- 可視化可能な塊茎の大きさ
Sサイズ(12g)の塊茎の安定した検出はできない。Mサイズ(79g)塊茎は2~5kHzの周波数帯においてインピーダンス分布パターンが明瞭に示される。Lサイズ(165g)の塊茎では周波数の影響はほとんど見られない。
成果の活用面・留意点
- EIT技術は、作物の地下部構造や生理的変化のモニタリングに有効である。
- センサーの空間分解能にはポット半径の1/10であり、細根構造の検出には不向きである。
- 再構成を行うには電極と土壌を均一に接触させる必要があるため、圃場応用に向けては電極等の設計を改良する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : Njane Stephen Njehia、吉田光希
- 発表論文等 : Njane S. N. et al. (2026) Engr Agric, Env. Food. 19:6-14