農作業の身体負担を評価するための二次元簡易型生体力学モデル

要約

農作業での身体負担を力学的に数値化する二次元生体力学モデルである。作業者の身長や体重、関節角度を入力することで、作業者の各関節に生じるトルクや椎間板圧縮力を簡易に計算できる。

  • キーワード:バイオメカニクス、人間工学、農作業、身体負荷、腰痛、アシストスーツ
  • 担当:農業機械研究部門・システム安全工学研究領域・協調安全システムグループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アシストスーツなどのスマート農機の実証試験が全国で進むとともに、これらの身体負担の軽減効果を簡易に評価する手法が求められている。従来、手軽な身体負担の評価法として用いられてきたOWAS(Ovako Working Posture Analysing System)は、作業を観察して大まかに姿勢を分類する手法であるため、対照実験での差は不明瞭となる傾向があり、特定の身体部位の負担解析にも適さない場合がある。人体などを力学的なモデルで表現して解析するバイオメカニクス手法(生体力学)を用いれば、身体負担を理論的に数値化することが可能であるが、高度な専門知識が必要となる。
このため、本研究ではノンプログラミングの生体力学モデルを開発することで、誰でも農作業の身体負担を容易に評価することを可能にする。

成果の内容・特徴

  • 本生体力学モデルは、作業者の身長・体重、関節角度を入力することにより、作業者の体格と姿勢に合わせて二次元モデルがグラフィカルに変化して表示されるとともに、各関節トルクや椎間板圧縮力が自動的に算出される(図1、2)。また、本モデルはMicrosoft Excelの基本的な表計算機能のみを用いて開発されており、PC環境への導入において情報セキュリティの問題が発生しない。
  • 本モデルの人体各部(セグメント)の長さ及び質量は、男女各5000人のデータから求めた日本人の体格推定式(瀬尾、1999)を用いて、作業者の身長及び体重比から算出している。算出されたセグメント長の統計上の誤差は95%信頼区間で±2cm程度、セグメント質量の統計上の誤差は±3kg程度である。また、モデルは各セグメント重心から求めた合成重心による転倒判定機能を持つ。
  • 本モデルの各関節の角度範囲は、20-80歳代の健常な日本人男女約1000人の人間特性計測データ(NITE、2001-2002)から求めており、範囲外の関節角度を入力するとセルが赤く表示される。
  • 本モデルから算出された関節トルク(足、膝、股、肩、肘、手)の人間特性計測データから求めた関節トルクの許容量に対する割合がグラフに表示される(図3左)。また、椎間板圧縮力はWatersらがまとめた腰部(脊椎L5/S1位置)の椎間板圧縮力の限界値等(Watersら、1993)とあわせてグラフに表示される(図3右)。
  • 本モデルの計算結果から作業者の身長、体重から農作業の身体負担を定量化することができる(図4)。さらに、アシストスーツのカタログ値や動的アシスト力測定装置(研究成果情報、2019)で計測したアシスト力等を参照することで、アシストスーツの負担軽減効果を検討可能である。
  • 本モデルは農作業での作業姿勢による身体負担の解析について汎用的に利用可能であり、さらに、農作業特有の環境情報や制約条件を追加することで、中腰、しゃがみ、腕上げ、コンテナ持ち上げといった農作業で代表的な作業での身体負担の解析にも応用できる。

成果の活用面・留意点

  • 専門知識がない者でも容易に利用できるよう、本モデルの構造及び設定した推定式や指標は可能な限り単純なものとした。より詳細な解析にはセグメントの追加や推定式等の変更が必要である。
  • 農作業の身体負担の定量化やアシストスーツの負担軽減効果等の解析に活用する。

具体的データ

図1 二次元簡易型生体力学モデルの入出力項目,図2 二次元簡易型生体力学モデル,図3 関節トルクの割合(左)及び椎間板圧縮力,図4 身体負担の定量化例

その他

  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2021~2023年度
  • 研究担当者:田中正浩、菊池豊、梅野覚、小林慶彦、手島司、紺屋秀之、山﨑裕文、松本将大
  • 発表論文等:田中(2021)職務作成プログラム「二次元簡易型生体力学モデル」、機構-S35