籾殻燃焼装置を熱源に利用する穀物乾燥システム

要約

籾殻の燃焼熱を穀物乾燥に利用するシステムである。本システムは30ha規模のライスセンターを対象として既存施設に後付け可能で、灯油使用量を従来機比で50~70%削減できる。籾殻燃焼灰は発がん性があるとされる結晶質シリカが検出限界以下で、可溶性ケイ酸を約50%含有している。

  • キーワード : 穀物乾燥、籾殻利用、環境負荷低減、SDGs、結晶質シリカ
  • 担当 : 農業機械研究部門・無人化農作業研究領域・革新的作業機構開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

籾の乾燥調製工程においては、穀物乾燥機の熱源として灯油を使用(10ha当たり1,200L程度)しているため、稲作生産におけるCO2排出量のうち、46%を乾燥調製工程が占めるとされている。CO2等の温室効果ガスの削減による環境負荷低減と、燃料費削減の観点から省エネ化を進めていく必要がある。また、籾摺りで大量に発生する籾殻の処分方法について、野焼きは基本的に禁止されていることから、産業廃棄物として処理する、籾殻庫が満量になれば収穫時期の農繁期でも籾殻をほ場に散布する必要がある等、コストや手間が掛かっている現状がある。そのため、生産現場からは、籾殻の熱利用や減容化に対する根強い要望がある。一方で、籾殻を熱利用する場合には、籾殻燃焼時に生成される可能性のある結晶質シリカが肺がん発症のリスクであることに配慮する必要がある。
そこで本研究では、これまでに開発した結晶質シリカの生成を抑制しつつ穀物乾燥の熱源に利用できる籾殻燃焼装置を核として、灯油使用量の削減や籾殻の減容効果の高い、栽培規模面積30ha向け(1日当たりの最大乾燥張込量150石(15t))の穀物乾燥システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、籾殻燃焼装置(表1)、温風供給ダクト、籾殻供給装置、籾殻燃焼灰回収装置等から構成される(図1)。乾燥に必要な熱量の大半を籾殻燃焼装置で供給し、供給熱量の微調節が容易な穀物乾燥機の灯油バーナーで不足分を補うハイブリッド方式である。この方式により、籾殻燃焼装置が万が一トラブル等で停止した場合でも従来の穀物乾燥機として乾燥が継続できる。また、穀物乾燥機本体の改造は不要であり、既存の乾燥施設に後付けが可能である。
  • 穀物乾燥機に供給する温風は、籾殻の燃焼ガスそのものではなく、籾殻燃焼装置に設けられた熱交換器によって暖められた外気である(図2)。そのため、温風にスス等は混入しておらず、その後の穀物乾燥機での灯油の燃焼に必要な酸素が含まれている。温風の温度は、温風供給ダクト内に設けた温度センサの値により籾殻供給量を自動で増減して調整される。
  • 灯油使用量は、アシスト率(乾燥に必要な熱量に対する籾殻燃焼装置の熱供給割合)に比例して削減することができる。通常は穀物乾燥機の温風温度制御機能を活かすため、アシスト率50~70%が好適範囲であるが、飼料用米等で温風温度制御機能が不要の場合には、アシスト率100%(灯油を使用しない)での運用も可能である(表2)。
  • 乾燥に使用する籾殻は、ライスセンターで排出される籾殻の約40%であるため、燃焼用の籾殻が不足する心配はなく、燃焼の前後で約5分の1に減容化される。籾殻燃焼灰は可溶性ケイ酸を約50%、難分解性炭素(土中で微生物に分解されにくい。)を約20%含有しており、市販されている籾殻くん炭と同等の施肥効果や農地への炭素貯留に期待できる。また、結晶質シリカについては検出限界以下の濃度である。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 30ha規模のライスセンター
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国・普及面積2,400ha/年・80台分/年(ライスセンター全国3,500基の約2%に相当)
  • その他 : 2022年度に静岡製機(株)から市販化される。稼働期間が長く、穀物乾燥機の張込量がそろっている施設での利用が有効である。燃焼時のスス発生は少ないが、年1回の排気ダクトの掃除が必要である。籾殻燃焼灰を融雪剤や土壌改良材として有効利用できる地域で導入メリットが大きい。小麦や大豆等の複数の穀物乾燥作業を行う施設では籾殻が不足する可能性がある。

具体的データ

図1 穀物乾燥システムの構成,表1 籾殻燃焼装置の主な仕様,表2 穀物乾燥システムによる乾燥試験結果,図2 籾殻燃焼装置の内部構造

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(みどりの食料システム戦略緊急対策事業:水田農業グリーン化転換推進事業(籾殻利活用循環型生産技術体系実証))
  • 研究期間 : 2015~2017、2021~2022年度
  • 研究担当者 : 土師健、野田崇啓、日髙靖之、嶋津光辰、荒井圭介、山下勝也(静岡製機)、大石茂(静岡製機)、石川輝幸(静岡製機)、伊藤辰巳(静岡製機)、浅岡健二(静岡製機)、浅井綱一郎(静岡製機)、野口良造(京都大学)
  • 発表論文等 : 日髙ら「籾殻燃焼装置、穀物乾燥システム」特許6744602号(2018年3月6日)