ほ場進入路での乗用トラクタ前進登坂時における後輪の著しい沈下を抑える法尻補強方法

要約

乗用トラクタの転落、転倒事故のリスクが高いと言われているほ場進入路において、法尻位置の土中に補強部材を埋設して登坂時での後輪の著しい沈下を抑制することで、走行性を改善する方法である。

  • キーワード : 農作業安全、安全性、ほ場進入路、トラクタ、走行性
  • 担当 : 農業機械研究部門・システム安全工学研究領域・協調安全システムグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

乗用トラクタ(以下、トラクタ)による死亡事故の約6割の原因は転落・転倒である。トラクタの転落・転倒事故は、ほ場進入路で多く、とりわけ進入時より退出時が多いと言われている。一方、トラクタ作業で車輪が200 mm以上沈下した場合には走行が困難になると言われている。ほ場進入路の走行時における法尻付近のスリップによる登坂困難や前輪浮上などのヒヤリハット体験も報告されている。
そこで、本研究では、ほ場進入路を簡易に改良して、トラクタのほ場進入路登坂時の走行性を改善する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本補強部材は、等辺山形鋼(材質:SS400、L30×30×3)をはしご形に組み合わせて溶接し、表面に防錆塗装を施している。サイズは長さ700×幅500×高さ51 mm、質量8 kgである(図1)。なお、谷側は耐荷重強度を強化するために取付け間隔を狭くしている。ほ場進入路の法尻位置の深さ200 mmかつ、それ以外の部分も土中になるよう補強部材を傾斜した状態で、トラクタ輪距の間隔で2個配置し、埋設する(図2)。トラクタ車輪の荷重を補強部材全体で支持することで地面の沈下が低減され、補強部材上側の突起により水平方向の土の移動が抑制されて軌(わだち)が少なくなり、駆動力を増加させる効果が期待される。さらに、土壌が軟弱でトラクタの後車輪が深く沈下すると、補強部材へ直接接して支持されるとともに、補強部材上側の突起へ直接接することで登坂に必要な車輪の駆動力が得られるようになる効果も期待される。
  • 本補強部材を湛水田(土質:関東ローム、土性LiC、塑性限界32.1 %d.b.、液性限界46.6 %d.b.、水田部分:含水比41.0 %d.b.、コーン指数135 Pa、く形板沈下量149 mm、耕盤深さ165 mm、水深10 mm、ほ場進入路部分:含水比18.8 %d.b.、コーン指数951 Pa、く形板沈下量3 mm)のほ場進入路(傾斜角度:11.8°[農水省ほ場整備基準上限12°])に設置し、ロータリを装着したトラクタ(44.1 kW[60PS]、合計質量2370 kg)で、1年間の走行回数を想定して走行速度0.3 m/s程度で10往復(20回)走行した結果に対して走行回数を共変量として共分散分析を行ったところ、いずれの走行回数においても「補強有」の軌深さは「補強無」より有意に小さかった(p<0.05)(図3、4)。
  • 本補強部材を法尻位置の深さ200mmに埋設しているので、法尻近くまで標準的な深さでロータリ耕うんしても、補強部材と耕うん爪とは接触しない。また、法尻位置以外の部分も土中にあるため、路面を刈払機で草刈りしても刈刃の破損、キックバックのリスクは従来と同等である。トラクタの後車輪が著しく沈下してロータリと地面との接触することが減り、地面が削られ、走行抵抗となることも軽減できる。

成果の活用面・留意点

  • ほ場進入路の簡易な現場改善方法として、農家自身による現場改善手法として活用が可能である。
  • 土質が関東ロームのほ場での試験結果であり、他の土質では確認が必要である。

具体的データ

図1 補強部材,図2 補強部材配置(断面模式図),図3 走行回数と軌深さ(左右平均),図4 補強有無と軌深さ

その他

  • 予算区分 : 交付金、内閣府(SIPII)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 菊池豊、小林慶彦、梅野覚、田中正浩、紺屋秀之、松本将大、向霄涵、藤田耕一、真仁田豊、松本功平、藤井桃子
  • 発表論文等 : 梅野ら(2023)農業食料工学会誌、85(1):35-40