要約
農作業環境におけるAIによる高精度な農作業者の検出を行うための転移学習用データセットの作成方法である。この方法で作成した学習データセットを用いて転移学習を行うことで、農作業環境において立位、中腰、しゃがみ姿勢の作業者を高い精度で検出することができる。
- キーワード : AI、人検出、転移学習、深層学習、農作業環境、農作業姿勢、再現率
- 担当 : 農業機械研究部門・システム安全工学研究領域・協調安全システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
農業機械と人との接触(挟まれ、ひかれ、巻き込まれ)に関する死亡事故は約4割発生しており、対策が急務である。その一因として、農業機械の周囲の作業者を発見できずに機体と作業者とが接触することが挙げられ、AIによる人検出が有効であると考えられる。しかし、農作業環境において農業機械の周囲の作業者は様々な服装を着用した状態で様々な姿勢をとるため、AIによる人の検出を困難としている。そこで、本研究では農作業環境においてAIにより高精度に作業者を検出することが可能となる転移学習用データセットの作成方法を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 本学習データセットは、農作業環境において農業機械周囲の設定した範囲で、カメラで人の立位、中腰、しゃがみ姿勢(以下、3姿勢)状態の静止画群を取得することで作成する。この時の3姿勢は上記設定範囲の複数箇所で、機体進行方向に対して前後左右の4方向で行う必要がある(図1)。この学習データセットを用いて転移学習を行うことにより、他の農作業環境においても3姿勢をとる作業者を高精度に検出するAIとすることが可能となる。なお、転移学習とは事前に大量の学習データセットで深層学習が行われたAIを基に、新規の学習データセットを用いて深層学習を行うことを指す。
- 本学習データセットを用いて転移学習を行う場合は、 前処理としてランダムに変換(色相:0~10%、彩度:0~20%、明度:0~20%、拡大:0~10%、左右反転又は無反転)する必要がある。また、学習データセット内の人に対して長方形座標を付す必要がある。
- Common Objects in Contextにより事前に深層学習が行われた物体検出器YOLOv3、Darknet53(以下、COCO AI)に対し、表1の条件で取得した6個の学習データセット(赤、青、黄、緑、黒、白服をそれぞれ着た時の3姿勢の静止画群)を用いて転移学習を行い、6個の検出器(以下、3姿勢AI)を用意した。表1の条件で取得した検証データセットによる再現率の値をSteel-Dwass法で多重比較した結果、3姿勢AI間では有意差が無く、3姿勢AIとCOCO AI間には5%で有意差があった。また、各姿勢の検証データセットによる再現率は表2となったことから、学習データセット内の服の色によるAIの精度に差がなく、3姿勢を転移学習することによりCOCO AIと比較して高精度に3姿勢(特にしゃがみ姿勢)をとる人を検出可能である(図2、表1、表2)。
成果の活用面・留意点
- 本方法は、農作業環境において高精度に人検出可能なAIにするための学習データセットの作成方法であり、危険通知技術や自動制御技術の開発に活用できる。
- 本方法における農作業環境は平たんかつ作物のない畑ほ場を想定しており、その他の場面では検討を要する。
- 本方法を用いて安全装置の開発を行う場合、人検出から装置が作動するまでの時間を考慮する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 梅野覚、小林慶彦、菊池豊、紺屋秀之、田中正浩、松本将大、向霄涵
- 発表論文等 : 梅野ら、特願(2022年10月12日)