要約
VRにより360度を見渡しながら農作業事故の危険性を体感できる安全啓発資材(田植機、農用運搬機、脚立編)である。発生件数が多い農作業事故のうち、公開済みの乗用トラクタ編等では不足する内容を体感・学習できる。事故を自分事だと理解でき、より効果的な安全研修を実現できる。
- キーワード : 農作業安全、危険体感、VR(仮想現実)、安全啓発、農作業事故
- 担当 : 農業機械研究部門・システム安全工学研究領域・予防安全システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
農作業事故の減少、農作業安全の強化は、我が国が農業を維持・発展させるために最も重要な課題のひとつであり、そのためには、機械や環境等の改良・改善とともに、農業者への安全教育が大きな役割を担う。労働災害を減少させてきた他産業においても、重大事故の下げ止まり等の背景から安全教育の重要性が改めて指摘されており、中でも体感型教育については、その効果が期待され、仮想現実(VR)を活用した啓発資材も増加している。農業においても、同様の啓発資材の開発・取組が期待され、これまでに、乗用トラクタ、耕うん機、コンバイン、刈払機、スピードスプレーヤの5機種に関するものが制作されたが、JA共済連共済金支払データに基づく農作業事故の発生状況によれば、この他に田植機、農用運搬機、脚立に関する事故も多く、新たにこれらに関する危険体感型啓発資材も提供できれば、幅広い農業者が、事故を「自分事」と実感できる機会を得られるようになる。
そこで、これらの機械・用具について、VRを活用した危険体感型の啓発資材を開発する。
成果の内容・特徴
- 田植機編では植付部での切創、畦越・進入路での機体の傾き、補助者の転落、農用運搬機編では悪路・過積載による機械の転倒・転落、機械積込み時の転落、脚立編では転落を主な危険事象として取り入れている(表1、図)。
- 視聴時間はVR酔いを防止し、体感・理解効果を促進させるのに妥当とされる3~5分程度である。農作業事故情報の要因分析結果を踏まえて、事故再現部分と事故原因や適切作業の解説部分(どうして事故に至ったのか、どうすれば事故を回避できたのか等)からなる(表2)。
- VRを活用した没入感の高い環境において、あたかも自身が事故にあったかのような体験をすることができる。これによって、事故をより「自分事」と捉えることができ、具体的な改善行動を促すことが確認されている。
- 本VRコンテンツ(既存5機種も含む)を視聴できるVR体験用ヘッドセットを260台運用しており、全国の農作業安全研修等に活用することができる。なお、VR動画はウェブサイト上でも公開しており、スマートフォンやパソコンでの視聴も可能である。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 生産者、普及指導機関、農協、自治体
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
- その他 : VR機材には視聴のみを行うタイプや、身体全体もしくは一部を動かすタイプがあるが、本VRコンテンツで運用しているVR体験用ヘッドセットは視聴のみを行うもので、視聴者は着座した状態で、ヘッドセット内に流れる映像を視聴する。なお、VR体験用ヘッドセットの運用及びVR動画の公開は、JA共済連が実施している。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2020~2023年度
- 研究担当者 : 紺屋朋子、大西明日見、皆川啓子、積栄、川村晃司(JA共済連)、松﨑翔太朗(JA共済連)、飯田清道(JA共済連)、根本めぐみ(JA共済連)、齋藤雅美(JA共済連)、小池美和(JA共済連)、和泉崇之(JA共済連)、山﨑勝也(JA共済連)、伊藤仁美(JA共済連)
- 発表論文等 : 紺屋ら(2023)農業食料工学会誌、85(6):421-423