収量予測のための果実計数を自動化するパプリカ用着果モニタリングシステム

要約

パプリカ果実を撮影し、熟度別に果実数を自動計数する着果モニタリングシステムである。本システムを用いることで、生育に伴い着果位置が4m程度に達するパプリカ果実の撮影が可能となり、0.5ha超の広い栽培区画でも翌週の収量の高精度な予測が期待できる。

  • キーワード : 物体検出、熟度判定、大規模施設園芸、両側同時計測
  • 担当 : 農業機械研究部門・知能化農機研究領域・施設園芸生産システムグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

現在、国内において果菜類を栽培する大規模施設園芸生産法人では、数週間先の出荷計画立案のための収量予測を目的として、栽培管理者の目視による果実の計数や過年度における同時期の収量に基づく概算が実施されている。既往の研究において、施設園芸におけるトマトの果実数計測を自動化することを目的として、作物個体群をスキャンして得られたパノラマ画像から、深層学習に基づく物体検出技術を利用してトマト果実を自動計数する着果モニタリングシステムを開発した。しかし、収量予測の対象となる栽培区画全体の作物列に対して、計測できる作物列が限られているため、計測列数増加を目的としてより効率的な計測システムが求められる。また、パプリカは、トマトとは異なり栽培後期には4mの高さに果実が着果するため、高所での計測が必要となる。
そこで本研究では、高所における計測が可能であり、カメラ2台を搭載して2つの作物列を同時に計測できるパプリカ用着果モニタリングシステムを新たに開発した。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、撮影を行うスキャニング装置と撮影された画像を解析する解析部から構成され、スキャニング装置は、主にLED、カメラ、タブレットPC等によって構成される(図1)。高所での計測を可能にするため、スキャニング装置を高所作業台車に搭載して、作業通路に敷設されたパイプレール上を一定速度で移動しながら作物列を撮影する。
  • スキャニング装置には2台のカメラが搭載されており、進行方向に対して左右両方向に1台ずつ向けられているため、走行する作業通路両側に植えられた作物列を同時に撮影可能である。
  • 解析部では、撮影した動画からパノラマ画像を作成し、パノラマ画像内の果実を深層学習に基づく物体検出技術によって自動検出し、果実の着色率(果実領域内の各色相のピクセル数割合)に基づく熟度別(図2)に果実数を自動計数することができる。
  • 本システムを用いて0.5ha超の広い栽培区画を代表する1/20以下の作物列を計数した果実数と、計数翌週の栽培区画全体の総収穫量には高い相関がある(図3)。このことから、本システムで計数した果実数はパプリカの収量予測に利用できると期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 作業管理システム等と組み合わせることで、収穫可能な果実数から管理や収穫に必要な時間・作業人員数を予測し、適切な作業計画・労務管理に活用可能である。
  • 中小規模の施設(温室)においても、移動体を別途用意することで、同様の自動果実計数及び収量予測が可能であると考えられる。
  • 計測は低照度等の夜間に実施する必要があり、果実の登熟速度は季節によって変化するため年間を通じた収量予測には環境情報による補正も必要と考えられる。

具体的データ

図1 パプリカ用スキャニング装置の構成,図2 深層学習に基づく果実検出と着色率(果実領域内の各色相のピクセル数割合)を利用した果実熟度判定,図3 計数した6作物列の平均検出果実数と計数翌週の0.6ha栽培区画全体(140列)の週間総収穫量の関係

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:栽培・労務管理の最適化を加速するオープンプラットフォームの整備)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2020~2023年度
  • 研究担当者 : 下元耕太、嶋津光辰、深津時広、内藤裕貴、太田智彦
  • 発表論文等 : 内藤、太田「植物体撮像装置」特開2022-099767(2022年7月5日)