要約
三次元生体力学モデルを用いて動的アシスト力測定装置(成果情報2019)によって得られた腰補助用アシストスーツのアシスト力(N・m)による農作業での腰部負荷軽減効果を評価する手法である。農作業動作、外力、アシスト力等を入力することで、腰部の負荷軽減効果を算出できる。
- キーワード : バイオメカニクス、人間工学、農作業、身体負荷、腰痛、アシストスーツ
- 担当 : 農業機械研究部門・システム安全工学研究領域・協調安全システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
身体に装着して人間の動作や姿勢を補助するアシストスーツはその構造と動力によって外骨格タイプ、サポータータイプ、アクティブタイプ、パッシブタイプに分類され、腰補助を目的とした製品が最も多く、その性能や効果に対する評価試験方法の確立が望まれてきた。
そこで本研究では、三次元生体力学モデルを開発することで動的アシスト力測定装置(成果情報2019)から得られたアシスト力(動トルク)による農作業での持ち上げ動作等における腰部負荷の軽減効果を定量的に評価することを可能にする。
成果の内容・特徴
- 開発した評価手法は以下の1)、2)要素で構成され、図1に示したフローで実施される。1)で導出される回帰式と、農作業動作時における被験者の関節角度、身長、体重データを、2)の三次元生体力学モデルへ入力すると、椎間板圧縮力や関節トルクなどの身体負荷を出力できる。
- 動的アシスト力測定装置(成果情報2019)を用いて腰補助用アシストスーツが前屈方向に90°回転する際のアシスト力を異なる角速度で連続的に記録する。さらに、得られたアシスト力をTPS(thin-plate spline)法などで平滑化し、回転角度と角速度の回帰式として表すことで、角速度の変化が激しい複雑な持ち上げ動作にも対応できる(図2)。市販のアシストスーツを10回連続で測定した際のアシスト力の変動係数は0.37%以下、回帰式の決定係数は0.96である。
- 開発した三次元生体力学モデルは、前腕、上腕、頭、肩、胸椎、腰椎、骨盤、大腿、下腿の13のセグメントから構成される。各セグメントの長さ、質量、重心位置は、Seo (1999)やWinter (2009)が報告している体格推定式を用いて、使用者の身長と体重を入力することで算出する。腰部荷重の動力学解析では、Winter (2009)とGagnon (2001)の逆動力学アルゴリズムと体幹筋の最適化アルゴリズムを用いて腰部荷重を推定している。アシスト力、農作業動作、手に生じる外力を三次元生体力学モデルに入力することで、モデルが農作業動作を実行し、発生した腰部トルクからアシスト力が差し引かれ、腰部トルクや椎間板圧縮力の軽減効果が出力される(図3)。
- 開発した三次元生体力学モデルは、Wilke(1999, 2001)が報告した人体の腰部(L5/S1)における椎間板圧縮力を実測した値との比較において、級内相関係数は0.93である(図4)。この結果より、三次元生体力学モデルから推定した腰部負荷は実測値とほぼ一致している。
- 図5は農作業を想定した持ち上げ作業(採集コンテナ10kgを軽トラ荷台高65cmの台へ挙上)に供試したアシストスーツによる椎間板圧縮力の軽減効果を示しており、最大約15%の軽減効果が認められる。本評価手法を構成する動的アシスト力測定装置と三次元生体力学モデルの精度や再現性は高く、アシストスーツによる腰部負担の軽減効果を十分に評価することができる。
成果の活用面・留意点
- 開発した三次元生体力学モデルは、中腰、しゃがみ、腕上げなど他の代表的な農作業動作の身体負荷の解析が可能である。
- 開発した評価手法は、製品評価だけでなく、人間の体格差や農作業環境などを考慮した農作業専用アシストスーツの設計支援が可能となる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 田中正浩、向霄涵、梅野覚、菊池豊、小林慶彦、紺屋秀之、松本将大
- 発表論文等 : Xiang X, et al. (2023) Frontiers in Bioengineering and Biotechnology.
doi.org/10.3389/fbioe.2023.1289686