過熱水蒸気を利用した高温高湿度空気による環境保全型水稲種子消毒装置

要約

過熱水蒸気を利用して水稲種子を高温短時間で熱消毒した後、冷却・乾燥まで連続処理する装置。種子消毒の処理能力は約500kg/hで、ばか苗病への防除効果は温湯消毒(60°C-10分)と同等である。種子1kgの処理に要する光熱水費は5.4円である。

  • キーワード : 蒸気、種子消毒、水稲、無農薬、低コスト
  • 担当 : 農業機械研究部門・機械化連携推進部・機械化連携推進室
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

農薬を用いない環境保全型の水稲種子消毒技術として、熱消毒(熱による病原体の殺滅または不活性化)の一種である温湯浸漬処理(以下、温湯消毒)が普及しているが、多量の種子処理と消毒済み種子の流通を行う施設では、温湯槽への給湯作業、脱水・乾燥作業に要する時間や労力、コスト面に対して一層の改善が求められている。そこで、温湯消毒固有の欠点である温湯への浸漬、その後の脱水・乾燥に必要な労力とコストの問題を抜本的に解決し、熱消毒から乾燥までを1台の装置で連続的に実施できる、過熱水蒸気を利用した水稲種子消毒装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 過熱水蒸気を利用した水稲種子消毒装置(以下、開発機。図1)は、蒸気による加熱の特徴である初期凝縮を積極的に活用し、水稲種子表面を湿熱により高温で加熱後、短時間(5~10秒)で加熱操作を終え、直ちに通風して冷却と乾燥を連続的に行う。装置から排出される種子は消毒済みで乾燥しているため、冷却水槽、脱水機、乾燥機等の機械設備は不要であり、即座に袋詰めを行うことができる。開発機の水稲種子処理能力は、500kg/hである。
  • 開発機による水稲種子の処理条件は、開発機固有の指標である「加熱後の種子温度(°C)」を用い、発芽率が低下しない加熱量を設定した上で処理を行う。条件設定後、開発機は加熱~冷却・乾燥までを自動で行うため、オペレータの作業負担は小さい。
  • 開発機のばか苗病に対する防除効果は、温湯消毒(60°C-10分)と同等である(表1)。また、細菌病への追加的な対策が必要な場合、催芽時の食酢添加や生物農薬の併用が有効である。
  • 開発機を作業者1名で1日8時間の連続運転をすると想定した場合、種子1kgの消毒費用は5.4円/kg、人件費を含む場合は7.9円/kgと試算できる(表2)。
  • 開発機の消毒原理は熱消毒であるため、化学農薬は使用しない。その反面、効果の持続性はないため、温湯消毒と同様、後工程での病原体への再感染や増殖が発生しないよう、育苗前の浸種、催芽の取扱いにも留意する必要がある。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 水稲種子消毒施設。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国・流通する水稲種子の10%。
  • その他 : 2025年1月に株式会社サタケから市販化。産地での本格導入にあたっては、関係する都道府県の普及組織や防除機関等の協力を得ながら、事前に産地での適用可能性を調査することが望ましい。詳しくは、「過熱水蒸気を利用した高温高湿度空気による水稲種子の熱消毒技術標準作業手順書」を参照願います。

具体的データ

図1 開発機(左:外観図、右:主要部位説明),表1 ばか苗病に対する種子消毒効果,表2 作業シナリオ※1に基づくコスト試算

その他